自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

せつなさ・いとおしさ・なつかしさ

【2709冊目】畠中恵『てんげんつう』

てんげんつう作者:恵, 畠中新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン31冊目。上は、なぜか文庫の画像が出てこなかったので、単行本バージョンになってます。前回紹介した『しゃばけ』に続き、今度はシリーズの18冊目。なんと刊行20年目との…

【2706冊目】七月隆文『ケーキ王子の名推理』

ケーキ王子の名推理(新潮文庫)作者:七月 隆文新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン28冊目。ケーキ好きで単純素朴な女子高生の未羽は、失恋の痛手を癒やそうとたまたま入ったケーキ屋で、学校一のイケメンだが女の子には冷たいので「…

【2704冊目】西加奈子『白いしるし』

白いしるし (新潮文庫)作者:西 加奈子新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン26冊目。こういう本を読むと、恋愛というものからずいぶん遠ざかったものだなあ、と思う。一人の人をここまで好きになることの、溶けるような幸福。その相手に…

【2703冊目】川端康成『雪国』

雪国(新潮文庫)作者:川端康成新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン25冊目。例によって若かりし頃に読みましたが、ピンと来なかった一冊です。むしろ「片腕」や「眠れる美女」の妖しさのほうが分かりやすく、惹かれるものがありました…

【2699冊目】吉本ばなな『キッチン』

キッチン作者:吉本ばなな幻冬舎Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン21冊目。「わたしがこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う」という書き出しから、一挙に引き込まれる。主人公のみかげの孤独が、一緒に暮らす雄一の孤独としずかに共鳴…

【2696冊目】サン=テグジュペリ『星の王子さま』

星の王子さま (新潮文庫) 作者:サン=テグジュペリ 新潮社 Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン第1投にして、18冊目。まずはこのあたりから始めましょうか。 超有名な一冊ですね。私も何度も読んできましたが、『夜間飛行』や『人間の大地』…

【2684冊目】乙一『夏と花火と私の死体』

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)作者:乙一集英社Amazon 今や有名作家の一人になった乙一だが、本書が世に出たときは、16歳の少年が書いたとは信じられないクオリティと斬新さが話題をさらったものだった。私も当時読んでびっくりしたのを覚えている。その時…

【2676冊目】ケン・リュウ『紙の動物園』

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)作者:ケン リュウ早川書房Amazon 現代SFを代表する名作。とはいえ本書のセレクションは、SFというより、どちらかというとファンタジーに近い。あるいは「寓話」というのが、一番近いかもしれない。ただしそれは、どこか…

【2675冊目】こうの史代『この世界の片隅に』

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)作者:こうの史代双葉社Amazon この世界の片隅に : 中 (アクションコミックス)作者:こうの史代双葉社Amazon この世界の片隅に : 下 (アクションコミックス)作者:こうの史代双葉社Amazon はい。オールタイムベ…

【2650冊目】河野裕『いなくなれ、群青』

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)作者:河野 裕新潮社Amazon 公園を横切っていたはずの「僕」は、気がつくと「階段島」にいた。ここから出るためには、どうやら「失くしたもの」を見つけなければならないらしい。そして、そこで「僕」は、真辺由宇という少女に…

【2640冊目】吉村昭『冷い夏、熱い夏』

冷い夏、熱い夏(新潮文庫)作者:吉村昭新潮社Amazon 今やインフォームド・コンセントの時代、癌の告知なんて当たり前ですが、本書が書かれた1980年代は、そうではなかったんですね。癌の診断は身内にだけ伝え、本人には隠し通すのが普通。本書の著者、吉村…

【2634冊目】寺地はるな『月のぶどう』

月のぶどう (ポプラ文庫)作者:はるな, 寺地ポプラ社Amazon いやあ、これは良い話だった。心に沁みました。舞台は月雲市という架空の町にあるワイナリー。そこを切り回してきた母が急逝し、娘の光実は悲しみに暮れるが、双子の弟の歩は泣くことができない。優…

【2614冊目】寺地はるな『ミナトホテルの裏庭には』

ミナトホテルの裏庭には (ポプラ文庫)作者:はるな, 寺地ポプラ社Amazon 今日読んだのは『ビオレタ』に続き寺地はるな。今回の主人公は男性です。祖父に頼まれて「ミナトホテル」の裏庭を開ける鍵を探す芯輔(しんのすけ)を中心に、やはり個性的でどこか達観…

【2606冊目】寺地はるな『ビオレタ』

ビオレタ (ポプラ文庫)作者:はるな, 寺地ポプラ社Amazon 最近よく名前を見るので気になっていた作家。この本はたまたま見かけて手に取ったけど、後から調べたらデビュー作とのこと。ポプラ社小説新人賞を受賞したらしい。だからというわけじゃないが、とって…

【2589冊目】マーク・ハッドン『夜中に犬に起こった奇妙な事件』

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)作者:マーク・ハッドン早川書房Amazon 「ぼく」は特別支援学校に通う15歳の少年だ。数学が得意で、今度数学の上級試験を受ける。だからこの本の章番号は全部素数になっている。人の感情を読み取るのは苦手だ…

【2533冊目】『「この世界の片隅に」こうの史代・片渕須直対談集』

「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと作者:史代, こうの,須直, 片渕発売日: 2019/11/29メディア: 単行本 映画『この世界の片隅に』を監督した片渕須直氏と、原作を描いたこうの史代氏が、映画の公開から、(監督曰く…

【2527冊目】中島信子『八月のひかり』

八月のひかり 作者:中島 信子 発売日: 2019/07/19 メディア: Kindle版 現代日本の「貧困」を正面から描いた児童文学。弟の勇希の明るさや母親の善人ぶりにだいぶ救われてはいるが、基本的には暗く、ヘビーな内容だ。父親の失職がきっかけで起きた暴力、子供…

【2518冊目】小川洋子『ブラフマンの埋葬』

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫) 作者:小川 洋子 発売日: 2007/04/13 メディア: 文庫 ブラフマンとは、本書の説明ではサンスクリット語で「謎」という意味。だが実際は、ヒンドゥー教の宇宙原理を指す。だから「ブラフマンの埋葬」とはものすごく深遠なタイト…

【2506冊目】宮尾登美子『寒椿』

寒椿 (新潮文庫) 作者:登美子, 宮尾 発売日: 2002/12/25 メディア: 文庫 生みの親に売られた先の芸妓子方屋「松崎」で、共に過ごした4人の女性の、行く末の物語を綴った短篇集。 4人の生涯は、一般的な意味では、決して幸福とはいえないだろう。男に囲われ…

【2496冊目】金原ひとみ『アタラクシア』

アタラクシア 作者:金原 ひとみ 発売日: 2019/05/24 メディア: 単行本 アタラクシアとは、なんと皮肉なタイトルか。哲人エピクロスによれば、これは「外界からわずらわされない、激しい情熱や欲望から自由な、平静不動の心のさま」をいう(「コトバンク」よ…

【2493冊目】岡崎京子『うたかたの日々』

うたかたの日々 作者:岡崎 京子 メディア: 単行本 ボリス・ヴィアンの幻想的で悲痛な恋愛小説を漫画化するという、考えようによっては暴挙としかいいようのない企画だが、描き手が岡崎京子というのが、蓋を開けたらぴったりハマっている。というか、ヴィアン…

【2490冊目】小川洋子『小箱』

小箱 作者:小川 洋子 発売日: 2019/10/07 メディア: 単行本 不在の物語。 「私」が住んでいるのは、以前幼稚園だった建物だ。お遊戯室の壁に貼られたカードからフックに1つだけ残された園児の帽子までが、そこにはそのまま残されている。そして、講堂には、…

【2477冊目】クリス・クラッチャー『ホエール・トーク』

ホエール・トーク 作者:クリス クラッチャー 出版社/メーカー: 青山出版社 発売日: 2004/04 メディア: 単行本 主人公のT・Jは黒人と白人と日系の混血で、IQ高くスポーツ万能、ドラック中毒の母親から引き離されて養父母のもとで育てられている高校生。通…

【2460冊目】川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫) 作者:川上 未映子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/10/15 メディア: 文庫 あけましておめでとうございます。今年も良い本に出会えますように。 さて、2020年の一冊目は、ひさびさの川上未映子。相変わらず、…

【2445冊目】ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫) 作者:ガブリエル ゼヴィン 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2017/12/06 メディア: 文庫 めったに出会えない、珠玉の物語。妻を亡くした偏屈な書店主フィクリー、書店に置いていかれた2歳の女の子マヤ、…

【2438冊目】『桜井哲夫詩集』

桜井哲夫詩集 (新・日本現代詩文庫) 作者: 桜井哲夫 出版社/メーカー: 土曜美術社出版販売 発売日: 2003/01 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る 夏空を震わせて 白樺の幹に鳴く蝉に おじぎ草がおじぎする 包帯を巻いた指…

【2431冊目】デイヴィッド・ベニオフ『25時』

25時 (新潮文庫) 作者: デイヴィッドベニオフ,David Benioff,田口俊樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2001/08 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 21回 この商品を含むブログ (19件) を見る 『卵をめぐる祖父の戦争』などで有名なベニオフ第1作。もっと…

【2389冊目】エーリッヒ・ケストナー『飛ぶ教室』

飛ぶ教室 (講談社文庫) 作者: エーリッヒケストナー,桜井誠,山口四郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2003/12/10 メディア: 文庫 クリック: 38回 この商品を含むブログ (54件) を見る 珠玉の児童文学。子供の頃に読むべき一冊だが、大人になって読むと、こ…

【2381冊目】ユーディト・W・タシュラー『国語教師』

国語教師 作者: ユーディト・W・タシュラー,浅井晶子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2019/05/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 事実とは何か。物語とは何か。真実とは何か。事実よりも物語の方が真実を語ることがあるとすれば、それはどう…

【2370冊目】高村光太郎『智恵子抄』

智恵子抄 (1956年) (新潮文庫) 作者: 高村光太郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1956/07/15 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 高村光太郎は嫌いじゃないが、智恵子抄は読まず嫌いだった。こんなもの、身勝手な男の一方的な感情の吐露だと思って…