hachiroetoの読書ノート

この世の片隅でこっそり書き続けています。一応自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2798冊目】瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』


優子の最初の母は亡くなり、父が再婚。2番目の母が来たところで、最初の父が海外赴任。2番目の母と暮らしていたが、再婚。2番目の父の家に引っ越す。その後、2番目の母は家を出て、優子は2番目の父の家に残る。その後、2番目の母が再婚し、優子は3番目の父のもとに。でも、2番目の母はまたもや家を出て、優子は3番目の父と暮らすことになる。


ああ、ややこしい。でも、優子をいじめたり虐待したりする親は一人もいない。優子はみんなから愛情を注がれ、すくすくと育つ。


え、そんなんで小説になるの?と思いながら読んだけれど、これがたいへん素晴らしいのだ。「たくさんの親がいる」ことをセンセーショナルに扱うのではなく、そこに置かれた女の子の気持ちを丹念に拾い上げる文章。日常のわずかな引っ掛かりや心のさざなみだけでも、それを丁寧に、繊細に扱えば、それだけで小説というのは成り立つのだ、と思わされた。


特に「3番目の父」である森宮さんが良かった。東大卒で一流企業に勤めるエリートだが、始業式の朝からカツ丼を食べさせたり、優子が二人分と思って買ってきたプリンを二つとも食べてしまったり、優子に元気をつけようと何日も連続で餃子を作ったりと、どこか(しかも、かなり)愛情の注ぎ方のピントがずれている。特にオムライスのエピソードには爆笑した。


そして、たっぷり愛情を注がれてきた優子が、家庭をもって愛情を注ぐ側に変わるところで、物語は終わる。この終わり方も、見事。こういう良質の物語が売れているのを見ると、今の日本も捨てたもんじゃない、と思います。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!

【2797冊目】伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』



大学に入ったばかりの「僕」が、隣の部屋に住む青年に「一緒に本屋を襲わないか」と言われる「現在」のパートと、ペットショップに勤める「わたし」とブータン人のドルジが「ペット殺し」の三人組と出会う「二年前」のパート。過去と現在が交互に語られます。


そこに共通して登場するのが、河崎という名前の人物なのですが、これが伊坂幸太郎らしい、トリッキーな人物。こういう「したり顔で不思議なことを語る人物」を描かせると、この人はやはりうまいですね。


ペット殺しの連中のような邪悪なキャラクターも登場しますが、基本的に物語は、穏やかに、飄々と進みます。「陽気なギャング」シリーズのような畳み掛けるようなテンポではなく、どちらかというとバラードのような。本書に何度も登場する、ボブ・ディランの歌のような。


どこか飄然としていて、どこかコミカルで、でもどこか淋しげ。伊坂作品の中でも、かなり「心に沁みる」リリカルな作品でもあります。


ちなみに「陽気なギャング」の響野さんが名前だけ登場しますね。伊坂版「人間劇場」といったところでしょうか。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


#読書 #読了

【2796冊目】砥上裕將『線は、僕を描く』


ひょんなことから水墨画の世界に飛び込んだ大学生、青山霜介の成長を描いた一冊です。


水墨画の奥深さをめぐる絶妙のアート小説で、両親を事故で亡くした主人公の精神の回復の物語で、水墨画の賞にまつわるバトル小説で、主人公と友人たちの交流を描く友情小説でもあります(友人の古前君のキャラがけっこう好きです。森見登美彦さんの小説に出てきそう)。いろんな魅力がありながら、全部がバランスよくまとまっているのも素晴らしいと思います。


そして、これらすべてを支えているのが、水墨画に関する圧倒的なリアリティ。その技法から精神面に至るまでの説得力はハンパじゃありません。こんなことが書ける著者は何者?と思って奥付を見たら、なんとプロの水墨画家であるとのこと。というか、小説は本書がデビュー作らしく二度びっくり。並々ならぬ才能と、著者にしか書けないテーマが融合して、この稀有の小説は生まれたのですね。


こうなると次回作が気になるところですが、すでに『7.5グラムの奇跡』が出ていますね。なんと水墨画から離れて「視能訓練士」を主役にしているとのことですが、評判は上々の様子。本書の登場人物による続編とスピンオフも、そのうち読んでみたいと思いました。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!

【2795冊目】まちゅまゆ『ヒトを食べたキリン』


幻想的でグロテスク、でもどこかかわいい「まちゅまゆ」さんの絵が、さいきん気になっています。


個展は終わってしまったようなので、まちゅまゆさんの描いた絵本を読んでみました。


人づきあいが不器用なキリンの、かなしいかなしい物語。


ちょっとした誤解がもとで、まわりからどんどん追い込まれ、


ついにヒトを食べてしまう。


そして最後の絵は、無人


キリンはどこにいってしまったのでしょう。


絵は、おそらくカンバスに描かれたものをそのまま使っているのでしょう。


布地の質感や絵の具の厚みがリアルに感じられ、


これはやはり、現物を見に行かなければ,と思いました。


まちゅまゆさんの本は、この絵本と、画集が一冊きりのようです。


独特すぎて現代のコマーシャリズムにははまらないかもしれませんが、


この世界観はものすごいと思います。


もっと知られてほしいような、でも自分だけのものにしておきたい、ような。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!