hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2745冊目】松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン67冊目。


ディズニーランドが舞台のお仕事小説という、まあ、こういう機会がなければ絶対読まなかったであろう小説でした。ディズニーランドの「表と裏」の対比がひとつの読みどころになっているのですが、そもそも私自身、ディズニー愛がほとんどゼロ、ディズニー映画もディズニーランドもできれば避けて通りたいと思っている人間なので、そのあたりは少々シラケ気味。まあ、誰もがディズニーランドを「夢と魔法の王国」だと思っているワケじゃありませんのでね。


とはいえ、客観的に見れば、お仕事小説としてはなかなかよくできています。正社員と準社員の差別、保身と責任転嫁、現場を知らないエリートなど、お仕事小説の定番テーマをうまく盛り込みつつ、ミッキーの着ぐるみの紛失という意想外の事件で一挙に物語をドライブしています。ラストはやや出来過ぎとも思えますが、まあ、半沢直樹水戸黄門だと思えば良いでしょう。


著者は「千里眼」シリーズなどミステリ系のイメージが強かったのですが、こういうさわやか系青春小説もうまいですね。アンチ・ディズニー派の私でも、わずか3日のあいだに見せてくれた後藤クンの成長ぶりには、思わず胸が熱くなってしまいました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【2744冊目】『江戸川乱歩傑作選』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン66冊目。


二銭銅貨」「二癈人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」を収録した一冊です。


初期作品が中心のセレクションですが、探偵モノであらためて読んで上手いな、と思ったのは「心理試験」。倒叙モノですが、心理テストをごまかそうとしてかえって墓穴を掘るという展開が鮮やかです。


「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」の後半4編はいずれもオールタイムベスト級の傑作。特に、唯一中期の作品から選ばれた「芋虫」は、何度読んでもとんでもない作品ですね。かいがいしく面倒を見ているようで実はサディスティックな感情を「芋虫」となった夫にぶつける妻の描写がリアルすぎてすごく怖い。見てはならない世界を覗いてしまった気になる小説です。


久しぶりに乱歩作品を読み直して思ったのですが、この人、心理描写が異常に上手いですね。日本版ラスコーリニコフともいえる「心理試験」の蕗屋にせよ、退屈から殺人を思いつく「屋根裏」の郷田三郎にせよ、先ほども書いた「芋虫」の時子の「介護者のサディズム」とでも呼ぶべき感情にせよ、人間にとって禁断の感情、闇の心理とでもいうべき心の動きを、よくここまでリアルに描けるものだと思います。現代のイヤミス作家と言われるような方々は、乱歩の爪の垢を煎じて飲むべきですね。


これに「パノラマ島奇談」と「押絵と旅する男」が加われば最強ラインナップと言いたいところですが、それでもなお、乱歩の醍醐味を味わうには十分な一冊でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【2743冊目】NHKスペシャル取材班『超常現象 科学者たちの挑戦』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン65冊目。


幽霊に死後の世界。生まれ変わりにスプーン曲げ。透視能力にテレパシー。「超常現象」とか「超能力」といわれるモノには、どこか胡散臭さがつきまとう。


超常現象を扱うテレビ番組の多くがこれまで取ってきたスタンスは、超常現象があるものとして扱うか、完全否定するかのどちらかだった。だが、本書の元となったNHKスペシャルは、そのどちらにも与しない。もちろん、生まれ変わりや幽霊についての話を集めたり、科学的な検証を試みたりはしている。だがその最終的な結論は「今のところはわからない」というものなのだ。


この結論は、はっきりいってテレビ受けする結論ではない。観る人の知的水準がもっとも問われるからだ。特に、スポンサーの意向に左右される民放テレビ局ではありえないだろう。こういう番組をしっかり作れるところに、NHKの存在意義があるのだが、その意味で、くだんの番組は公共放送としての責任をしっかり果たしたといえるだろう。


それにしても、本書に登場するエピソードはひとつひとつがやたらに面白い。エディンバラでの前世の記憶を語り始める日本の男の子の話とか、CIAユリ・ゲラーの超能力を本気で検証しようとしていたとか、そもそもアメリカとソ連の超能力者による「透視合戦」が本当に行われていたとか、7万人が集まる大イベントのクライマックスで、絶対に外部の影響を受けないはずの乱数製造機に偏りが生まれたとか、まあとにかく、インチキと片付けるにはリアルすぎる話題のオンパレードなのだ。


ここまでいろんな事例を集めつつ、それでも超常現象は「あるかどうかわからない」と結論づけるNHKのスタッフの知的誠実さには、本当に頭が下がる。今後の議論の基準点として、超常現象の否定派も肯定派も、一度は読んでおくべき一冊だ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【2742冊目】一條次郎『レプリカたちの夜』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン64冊目。


とてもヘンである。そして忘れがたい。ちょっと類をみない小説だ。


夜中の工場にあらわれるシロクマ。姿を消す工場長。自分自身のレプリカ。頭がターンテーブルになっているカッパ。ぷりんぷりん音頭を踊るうちに溶けてしまう女性。次から次へと登場するシュールでミステリアスな状況。その中に、主人公どころか物語ごと巻き込まれていく。


シュールなのに文章が読みやすいので、理解しがたい状況でも、読者の頭の中にあざやかにイメージが浮かぶ。これは新時代のカフカ安部公房か、ブルガーコフデヴィッド・リンチか。いずれにせよデビュー作でこのクオリティとは、これはとんでもない才能。鬼才と呼ぶにふさわしい。個人的にはうみみずの展開するディープな人間=動物論が面白かった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!