hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2715冊目】岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン37冊目。


先日の『赤毛のアン』とは別の意味で、こういう機会がなければ手に取らなかったであろう一冊です。


弱小野球部が甲子園に行く、という野球モノ超定番の設定ですが、そもそも本書は小説ではなく、あくまでピーター・ドラッカーの『マネジメント』を理解するツールとして高校野球が使われていますので、あえて直球ど真ん中を選んだとも言えます。弱小野球部にしては監督やメンバーが豪華なのも、そういう意味では納得。小説としての出来にツッコミを入れる本ではないのです。むしろライトなビジネス本としてアプローチすべきかと。


そう考えれば、超名著ですが名著すぎてどこが大事なのかわかりにくい(というか、全部大事なことが書いてあるのでメリハリがつきにくい)『マネジメント』をここまで具体的な実践に即して明快に解説したという意味で、やはりこの本はなかなかです。しかも、なんと小説として(ベタですが)感動さえさせられるのです!


そしてなんといっても、ビジネスと無関係に思える高校野球の世界を選んだのがうまかった。それによって、ビジネス以外の分野での組織運営に頭を悩ませる多くの人が、この本を手に取ったことでしょう。実際、給料と就業規則で縛れる会社組織より、部活動やPTAや町内会、マンションの自治会や趣味のサークルなどのほうが、実は組織運営は厄介なものなのです。本書がロングセラーになった理由もわかる気がします。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【2714冊目】ルーシー・モード・モンゴメリ『赤毛のアン』



新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン36冊目。


いや〜、まさかこの年になって『赤毛のアン』を読むことになるとは思いませんでした。しかも「もっと早く読んでおけばよかった」と思うとは! 名作と呼ばれる作品は、男の子向けとか女の子向けとかにこだわらず、一度は手に取ってみるものですね。


とにかく主人公アンの魅力が圧倒的です。おしゃべりで夢想家、率直で意地っ張り。でも、その素直で屈託のない人柄に、周りの人がどんどん惹かれていくのですね。今は死語かもしれませんが、アンこそは、女の子の魅力のエッセンスがきらめくばかりに詰め込まれたキャラクターなのだと思います。


周囲をかためる人々も魅力的です。無口だが心の温かいマシュウに、皮肉屋で厳しいが実はだれよりアンを想っているマリラ。無二の親友ダイアナにライバルのギルバート・・・・・・。たまに出てくる嫌な奴(フィリップス先生とか「バーリーの小母さん」とか)も、いつの間にかアンによって、その人間的な魅力が引き出され、アンを気に入ってしまうのだからたいしたものです。


それにしても、原題のAnne of green gablesを「赤毛のアン」と訳した村岡花子は素晴らしいと思います(発案者は別の人らしいですが)。エネルギッシュで個性的な赤毛こそアンそのものですし、考えてみれば、「緑の屋根」と「赤い髪」が色彩のコントラストになっているのですから。いずれにせよ、この作品に出会わせてくれた「新潮文庫100冊」には感謝しかありません。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

【2713冊目】村上春樹『螢・納屋を焼く・その他の短編』



新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン35冊目。


村上春樹の初期短篇集です。それぞれの作品の印象を一言でいうと、「螢」はリリカル、「納屋を焼く」は不気味、「踊る小人」はホラー、「めくらやなぎと眠る女」はミステリアス、「三つのドイツ幻想」は寓話的、といったところでしょうか。


どの作品も、いや、それをいうなら村上春樹の作品の多くが、日常を丁寧に描きつつ、その裏側にある非日常の気配を濃密に漂わせています。描いているものは部屋の掃除とか食べた料理とかなのですが、その描写が具体的であればあるほど、その隙間にわずかに顔を出すものの異様さが際立つのです。特に本書では、「死」というテーマが常に通奏低音のように鳴っています。


「死は生の対極としてではなく、その一部といて存在している。

 言葉にしてしまうと嫌になってしまうくらい平凡だ。まったくの一般論だ。しかし僕はその時それをことばとしてではなくひとつの空気として身のうちに感じたのだ。文鎮の中にもビリヤード台に並んだ四個のボールの中にも死は存在していた。そして我々はそれをまるで細かいちりみたいに肺の中に吸い込みながら生きてきたのだ」(p.30-31)


もっとも、ここに描かれた「死」は切実なものでありながら、どこか非現実的な、地に足のついていないものであるようにも感じました。そのあたりの描き方が変容したのは『アンダーグラウンド』で地下鉄サリン事件の取材をしてからではないかと勝手に思っているのですが、実際のところはどうなんでしょう。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


【2712冊目】山田詠美『ぼくは勉強ができない』



新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン34冊目。


主人公の時田秀美は、17歳の高校生。勉強はできないが、女性にはよくモテる。そして、そっちのほうがずっと大事なことだとわかっている。


自分が高校生の頃を思い出しながら読んでいた。大人の目からは、かれらは何にもわかっていないように見える。でも、実はかれらは、いろいろ分かっている。むしろあまりにもまっすぐに、あまりにも深くわかりすぎてしまい、自分の身の丈とのあまりのギャップに、悶え苦しむものなのだ。


本書は、そんな高校生の心情を、圧倒的な解像度の高さで描く。ちょっとした会話のディテール、ほんのわずかな仕草から、匂い立つようにあの頃の思いが蘇る。もちろん、私と時田秀美くんは全然ちがう性格だけど、それでもやはりそうなのだ。


だから本書は、著者自身が「あとがき」で書いているように、大人になってから読むとよい。著者はこんなふうにも書いているのである。


「時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい。叙情は常に遅れて来た客観視の中に存在するし、自分の内なる倫理は過去の積木の隙間に潜むものではないだろうか」(p.242)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!