【2634冊目】寺地はるな『月のぶどう』
いやあ、これは良い話だった。心に沁みました。
舞台は月雲市という架空の町にあるワイナリー。そこを切り回してきた母が急逝し、娘の光実は悲しみに暮れるが、双子の弟の歩は泣くことができない。
優秀な姉といつも比べられ、母からも目を合わせてもらえなかった歩は、その屈託をずっと抱えてきた。だから、ワインに興味もなく、家業を手伝ってもこなかった。しかし、ワイナリーを引き継いでいこうとする光実に頼まれ、思いがけず歩もワイン作りの道に入ることになる・・・。
愛想笑いが習い性で、いつも逃げてばかりだった歩は、ワイナリーでの日々のなかで少しずつ変わり、自分の人生を自分で引き受けるようになっていく。姉の光実は優秀だと言われるぶん、弱みを見せるのが苦手だが、こちらも少しずつ、周囲に心をひらいていく。
周囲の人々のキャラクターもいい。普段はニコニコしているがワイン作りとなると人が変わる日野、コンプレックスを抱え、歩を嫌って嫌がらせを繰り返す森園、無口だが懐の深い友人の広田、アルコール依存の母に悩まされるガラス工房のあずみ。だが、特に魅力的だったのは祖父の存在感。ワイナリーの会長であり、いたずら好きだが全てを見通し、包み込む。こういう人になれたらいいなあ、と心から思える存在だ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!