hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2676冊目】ケン・リュウ『紙の動物園』


現代SFを代表する名作。


とはいえ本書のセレクションは、SFというより、どちらかというとファンタジーに近い。あるいは「寓話」というのが、一番近いかもしれない。ただしそれは、どこか別の世界の物語ではない。この本で語られているのは、あくまで、今ここにある世界。


どの作品にも、中国で生まれてアメリカに育った著者ならではの感覚が活きている。本書冒頭の表題作「紙の動物園」の主人公は、アメリカ人の父と中国人の母の間に生まれ、アメリカで暮らす少年だ。母が折ってくれた折り紙の動物たちは、みんな命を吹き込まれて動き出す。


でも「ぼく」は、紙のトラや水牛よりも、声の出るオビワン・ケノービのフィギュアのほうがよかったのだ。カタコトの英語しか話せない母、中国の料理ばかり作る母がイヤだったのだ。アメリカに渡る前、中国で母の舐めてきた辛酸の数々など、その頃の「ぼく」は何も知らなかった・・・・・・


これと対をなすのが、本書のラストを飾る短編「文字占い師」。コチラは、台湾に渡ったアメリカ人の少女リリーが主人公だ。「紙の動物園」の主人公と同じように、外国人のリリーは学校でいじめられ、排除されている。その心を支えてくれるのが、文字占い師の老人の甘さんだ。飢饉と文化大革命の吹き荒れる中国本土から台湾に逃れてきた甘さんは、不思議な文字占いでリリーを魅了する。家に帰ったリリーは、甘さんのことを興奮気味に両親に話すのだが、その先に待っていたのは残酷な結末だった・・・・・・


少し毛色が変わった作品では「結縄」がおもしろい。文字の代わりに縄の結び目でいろいろなことを伝えるナン族のソエ=ボは、外国からやってきた男たちに縄の結び目の秘密を伝え、引き換えに少ない水でも育つという種籾をもらう。縄の「文字」は、なんとアミノ酸配列の自然状態に関する秘密を解き明かすもので、そのデータをもとに薬を作ることで莫大な利益をもたらすものだった。ところが問題は、ナン族がもらった種籾のほうだったのだ。


このラストは、モンサントなどの食糧コングロマリットが実際に途上国に対して行っていることと同じである。この種籾は遺伝情報が組み替えられており、再生産ができないようになっている。彼らは毎年、高価な種籾を購入し続けなければならないのだ。


他の短編「月へ」「太平洋横断海底トンネル小史」「心智五行」「愛のアルゴリズム」も含め、本書に収められた7篇はいずれも粒揃いの傑作ばかり。久しぶりにSFを堪能できました。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!