自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2506冊目】宮尾登美子『寒椿』

 

寒椿 (新潮文庫)

寒椿 (新潮文庫)

 

 

生みの親に売られた先の芸妓子方屋「松崎」で、共に過ごした4人の女性の、行く末の物語を綴った短篇集。

 

4人の生涯は、一般的な意味では、決して幸福とはいえないだろう。男に囲われる生活だったが大怪我をして寝たきりになり、背中一面が床ずれで剥けてしまった澄子。頭が足りないとずっと罵られ、自分を売って酒代に替えてしまった父親への愛惜の情を思いきれず、お金を送り続ける民江。たいへんな美人ながら手癖や食い意地が悪く、それが祟って若死にした貞子。夫の実業の手伝いに身を削った妙子の「安楽さを願うより、より困難なものを乗り越してゆくほうに魅力を感じる」性分も、かえって苦労を増やしているようにも思われる。

 

こうした女性たちの身の上を、たいていの人は「哀れ」「かわいそう」と感じるのではないか。確かに、彼女らの人生のひとつひとつのエピソードは、大半が切なく、痛ましいものだ。だが一方で、ここには、安易に哀れみを覚えることをためらわせる何かがある。それは、この4人の女性がその中を生きたということそのものの重みであろう。言い換えれば、そこには4つの、いずれも類例のない「生きざま」があったのである。だいたい、切なくも痛ましくもない人生なんて、果たしてあるのだろうか。誰だって、切ない思いも辛い思いもしながらも、そこに自分なりの生きざまというものを体現していくのではないだろうか。