【2589冊目】マーク・ハッドン『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
「ぼく」は特別支援学校に通う15歳の少年だ。数学が得意で、今度数学の上級試験を受ける。だからこの本の章番号は全部素数になっている。
人の感情を読み取るのは苦手だ。人に触られるのも嫌いで、突然触られると殴ってしまうこともある。黄色いものと茶色のものが嫌いで、シャーロック・ホームズが好きだけど、『バスカヴィルの犬』で犬が撃ち殺されるところは好きではない。なぜなら犬はなにも悪くないのに殺されたから。
本書は稀有の小説だ。知能は高いがコミュニケーションに課題を抱える、一般には発達障害、高機能自閉症と言われるであろう少年の一人語りで、その内面の世界を、この上なくみずみずしく描き出した。
そのうえ、本書はミステリでもあり、冒険譚でもある。「ぼく」は近所の犬を殺した犯人を探そうとする。父親の秘密に気付き、ある目的をもってひとりでロンドンに行く。騒がしくごちゃごちゃしたロンドンでの「ぼく」の探索行は、この本の白眉である。
誰にでも読んでほしいと思う本には、めったに出会えない。本書はそういう数少ない本のひとつ。愛しく、せつなく、そして心の底から勇気づけられる一冊。オススメです。