hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2684冊目】乙一『夏と花火と私の死体』


今や有名作家の一人になった乙一だが、本書が世に出たときは、16歳の少年が書いたとは信じられないクオリティと斬新さが話題をさらったものだった。私も当時読んでびっくりしたのを覚えている。


その時以来の再読となるが、やはり死んだ「わたし」の視点で語るという手法は、今読んでもとんでもないものだ。死んだと言っても、幽霊とか亡霊というわけではない。自分の死体を眺めているのだから、死体からは飛び出しているのだろうが、だったら「わたし」はなんなのか、一切説明はない。


その「わたし」を木の枝から突き落として殺した9歳の「弥生ちゃん」と、その兄の「健くん」が、どうにかしてその死体を隠そうとするところがサスペンスになっている。その背景は、のんびりした田舎の夏と、子どもたちの花火大会。穏やかな風景と「死体隠し」のコントラストが鮮やかで、さらにそれを死んだ「わたし」が眺めているというのが、一種独特の不気味さをかもしだしている。


同時収録の「優子」のほうは、どちらかといえば正統派のホラー、あるいは「怪談」に近い。人形を集めて部屋に並べている作家と、一度も顔を見たことがない妻の優子が、家政婦の清音の視点から語られる。ラストのどんでん返しはそれほど意外ではないが、やはりじわじわと迫る語り口がうまい。「夏と・・・」ではややぎごちなかった会話文も、こちらではずいぶんと自然になっている。


いずれにせよ、やはりこれは天才としか言いようがない完成度とディテールだ。最近の作品は追いかけていなかったが、久しぶりに読んでみようかな。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!