【2493冊目】岡崎京子『うたかたの日々』
ボリス・ヴィアンの幻想的で悲痛な恋愛小説を漫画化するという、考えようによっては暴挙としかいいようのない企画だが、描き手が岡崎京子というのが、蓋を開けたらぴったりハマっている。というか、ヴィアンの作品自体はまさに文学でしか表しようのない世界観なのであるが、それを漫画でしか表し得ない世界観で置き換えているところに、岡崎京子という才能の凄みを感じる。
音楽に基づいて自動的に調合するカクテル・マシーン、噛みつくネクタイに暴れるソーセージといった「小道具」がおもしろく、現実であって現実離れした「もうひとつのパリ」になっている。ただし、死にゆくクロエの胸に咲く睡蓮の花、という圧倒的に美しいイメージだけは、小説の中で、言葉の並びによって読み取るのがよさそうだ。