自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2814冊目】立松和平『道元禅師』

とてつもない本でした。単行本で上下巻、計1,000ページ以上(その後三分冊で文庫化されたようですが、私が読んだのは単行本でした。リンク先は文庫本の方にしておきます)というボリュームに加え、物語としてはそれなりの紆余曲折はありますが、どちらかというと淡々としたもの。にもかかわらず、圧倒的な引力のようなものがあって、読み始めると止まらない。滔々と流れる、しかし底まで澄み通った大河のような、実に不思議な、しかしスケールの大きい小説です。


タイトルのとおり、本書は曹洞宗の開祖にして日本屈指の傑僧、道元の伝記小説です。鎌倉時代の不穏な空気を背景に(ちょうど今、大河ドラマでやっている北条義時の時代ですね)、道元という稀有の人物の辿った道のりをひたすら描きます。「重瞳の子」としての宿命をもって源氏と藤原家の血筋のもとに生まれ、俗世を歩めば摂政関白にでもなれた道元が、出家の道を選び、宋に渡り、そこで生涯の師に出会って大悟し、日本に帰ってからは新たな仏教の教えを広め、叡山に憎まれて京を去り、越前に永平寺を開く。一見順調そのもののような人生ですが、そうではなかったことは本書を読めばすぐわかるでしょう。旅路に常に付き添ってきた右門のやわらかい語りが、本書を魅力的なものにしています。


道元の人生を辿るとは、一人の人間として究極の高みに至るまでのプロセスを辿ることだなのだと思います。もともとは永平寺発行の「傘松」に連載されたとのことで、道元の説法もたっぷり取り入れられています。道元の透徹した思想を知るためにも、本書はうってつけの一冊といえるでしょう。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!


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