【2724冊目】フョードル・ドストエフスキー『罪と罰』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン46冊目。
何度読んだかわからない。そして、読むたびに新しい発見と感動がある。名作とはまさにこういうものだと思う。
頭でっかちで神経質なラスコーリニコフと、アル中の父と子だくさんの貧しい家族のため身を売る「絶対聖女」ソーニャ。この二人を両極として、登場するすべての人物が強烈で、個性的で、しかもある種の典型となっている。
ルージンの俗物ぶりや、陽気な好人物ラズミーヒンなども忘れがたいが、今回印象的だったのは、冒頭近くに出てくるソーニャの父マルメラードフの「典型的なアルコール依存症ぶり」だ。家の金を飲み尽くし、娘がそのために身を売るという悲惨な状況にあって、だからこそさらに飲まざるを得ないというその状況は、なぜそんなことをドストエフスキーは知っているのだろう、と思ってしまうほどに、実は典型的なアルコール依存症者とその家族の姿なのだ。
そして、今回読んで感じ入ったのは、「倒叙型ミステリ」としての本書の出来の良さである。特に、頭の中で組み立てた完全犯罪と現実の犯罪の落差と、周囲のわずかな言動から心理的に追い詰められるラスコーリニコフの心理描写のリアリティはものすごい。そういえば『カラマーゾフの兄弟』は、未完ながら父フョードルの殺人事件をめぐるフーダニット型ミステリでもあった。実はドストエフスキーは、ミステリの達人でもあったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!