【2813冊目】信田さよ子『カウンセラーは何を見ているか』
カウンセラーは感情労働?
カウンセラーの仕事は「傾聴」し「共感」すること?
カウンセラーがやっているのは「心のケア」?
カウンセラーは、相手の自己決定を促す仕事?
いわゆる「一般的なカウンセラーのイメージ」といえば、こんなところだろうか。
だが、こうしたイメージをお持ちの方が本書を読むと、びっくりすると思う。なにしろ、本書はこれらをすべてひっくり返す内容なのだから。
おそらく著者の実践の「背骨」になっているのは、本書でも紹介されている、松村康平氏の言葉であるように思う。
「共感なんかできませんよ。人の気持ちなんかわかりません」
「自分がいくつありますか。多ければ多いほど、豊かなんですよ」(p.138)
えっ、と思うかもしれないが、カウンセリングや相談援助の実践に携わっている人であれば、この言葉には深くうなずくのではないか。
「心のケア」についても、著者は懐疑的だ。多くの場合、そもそも、クライエントの「心」に問題があるのではないからだ。大事なのは、問題の捉え直しである。「その人たちの心に問題があるのではない、病理が潜んでいるわけでもない」と明確にし、「あなたが苦しくどうしようもなくなっていることは当然である」と判断すること(p.102)が肝要なのだ(治療的ではないという点で、いわゆる障害の社会モデルを思わせる)。
そして、そのためにはカウンセラー自身が、世の中の「常識」と呼ばれるものについて距離を置いておく必要がある(常識を無視する、ということではない)。なぜなら、クライエント自身がそうした常識(例えば「子どもが親を憎むなんてあってはならない」)に囚われて、悩んでしまっていることが多いからだ。
それから、おそらく本書でもっとも大切なこと。それは、カウンセラーの「覚悟」についてである。何に対する覚悟かといえば、クライエントの言葉を引き受けるという覚悟だ。ただし、ここで大事なのは「カウンセラーが実際に引き受けることは不可能」であるということ。不可能にもかかわらず、引き受けるという姿勢を本心から示す。そのことで、はじめてクライエントからの信頼を得られるのだ。
これは難しい。が、この一見矛盾した状態にこそ、カウンセリングや相談援助の真実がある。できないことを示すなんて無責任じゃないか、と思われる人もいるだろう。だが、そういう援助者に待っているのは、無理なものを引き受けたことによるバーンアウトか、単に世間の常識を押し付けるだけの「なんちゃってカウンセリング」でしかないのではなかろうか。
タイトルだけ見ると、本書はカウンセラーだけを対象にしているように思える。だが、本書は相談援助に関わる人すべての必携書だ。少なくとも私が相談援助の現場に関わり、またその中でいろいろな本を読んできた中では、もっとも腑に落ちることの多い一冊であった。タイトル(と表紙)に惑わされず、ぜひとも手に取ってほしいと思う。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#読書 #読了