【2815冊目】姫野カオルコ『昭和の犬』
しょっちゅう理不尽な怒りをぶちまける(本書では「割れる」と表現。うまい言い方だ)シベリア帰りの父と、自分の娘のこととなるとこれっぽっちも認めない母のもと、昭和33年に生まれた柏木イク。
いささかアブノーマルな両親、声が極端に聞こえづらい(これ、私もそうなので、気持ちはよくわかります)ため無視されやすいイクの、やや微妙な、でもやっぱり平凡といえば平凡な昭和の家族の日々を淡々と描いています。そして、その人生には、いつも犬がいたのです。犬と共に過ごした故郷・滋賀県での、そして大学に入り上京した東京での日々。
こんなふうに書くと、なんだかあまり面白くなさそうに感じてしまうかもしれませんが、いやいや、これがなかなかに、読んでいるとやめられなくなるのです。だいたい、誰の人生だって、後から考えれば平凡であっても、渦中にいればそれなりの事件があり、悩みがあるものです。もっとも、日々の生活を淡々と綴ってなおかつ飽きさせないというのは、やはり作家の技量あってのことですが。
あと、私は犬はそれほど好きじゃないんですが、犬好きにはこたえられない「犬小説」であることも申し添えておきましょう。だいたい、イクの父が人間的には難ありでも犬の扱いでは並外れていて、イク自身も(人間相手ではおっかなびっくりですが)犬への対応がものすごく上手いのですね。そんな犬あしらいの腕が認められて、そこから人とのつながりができてくるのですから、人生なにが得するかわかりません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
#読書 #読了