【2774冊目】重松清『ハレルヤ!』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン97冊目。
学生時代にバンドを組んでいた5人が、人生の後半を迎えてバンドの再結成に向けて動き出す・・・・・・というような話じゃなくて、安心した。本書で描かれているのは、人生の折り返し点に立った5人がつかのま交錯し、それぞれのステージで後半戦をはじめるさまなのだ。
「終章」に書かれた作者の独白のようなものを読むと、もともとは別の物語を構想していたのが、キヨシローこと忌野清志郎の死で全部ぶっ飛んでしまい、そこから始まった「何か」を書くことにした、と書かれている。
なるほど、確かにこの小説は、とても個人的で、思い入れが強いものになっている。熱量が高く、それが隠しきれないくらいになって噴き出している。さらに言えば、プロットを緻密に練った作品とは言いがたいのだが、だからといってまったく破綻せず、むしろ熱量が増すほどに筋書きはリアルに撤し、それでも一挙に読ませるところは、さすが小説の名手である。
そして、ところどころに出てくるキメ台詞、キメフレーズが、いちいちぶっ刺さるのだ。なにしろこの「人生のB面」に入ったばかりという彼らの年齢は、46歳。今の私とほとんど同い年なのだ。このあたりの「オジサン泣かせ」のうまさも、さすがは重松清なのである。
「『負けた』ってことと、『終わった』ってことは、違うよな」
「ツアーが終わってないうちは、次のステージがあるんだから」
「忘れることと、なくすことは違う。てっきりなくしていたと思っていたけど、じつは忘れてしまっていただけーーそんなものがたくさんあるといい」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!