自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2772冊目】湯本香樹実『夏の庭』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン94冊目。


名作です。平成4年の刊行ですから、定番の名作が多い児童文学としてはかなり「新しい」作品ですが、おそらく本書は、はこれからもずっと読み続けられるでしょう。それほどの小説です。


ズッコケ三人組を思わせる小学生3人が「死」に興味をもち、近所のおじいさんが死ぬまでを観察しようと集まります。しかし、思いがけずおじいさんと交流するようになった3人は、さまざまなことをそのおじいさんから学ぶのです。


おじいさんが教えてくれるのは、どれも3人が親から教えてもらったことのないことばかり。それも、単に知識を伝えるというだけではなく、生き方そのものをおじいさんの姿から学ぶのです。3人は最後の方、おじいさんが亡くなった後に「おじいさんならなんと言うだろうか」と考えるようになります。3人にとっておじいさんは人生の手本であり、大人になるための道しるべのような存在だったのです。


こうした「知恵の伝承」こそ、かつては祖父母の役割でした。ところが今や、親は自分のことに忙しく、年寄りは持て余されて老人ホームに入れられるのです(おじいさんのかつての妻、古香さんのように)。生き方に迷ったり、病んでしまう若者が増えるのも当然ですね。


家の前にゴミを積み上げ、一日中テレビを見ているだけだったおじいさんもまた、3人との交流の中で徐々に変わっていきます。なんというか、子どもたちと関わる中で、だんだん生き生きとしてくるのですね。お互いに影響を与え合い、お互いに変わっていく。その意味で、おじいさんと小学生3人の関係は対等なのです。でも、それこそが本来の、人と人との関係なのではないでしょうか。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!