自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2773冊目】湊かなえ『豆の上で眠る』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン95冊目。


失踪した姉が2年ぶりに帰ってくるが、妹だけは姉が偽物だと思えて仕方がない・・・・・・という話なのですが、実は半分以上が、姉の失踪期間中の出来事で占められています。姉を探すため「変質者探し」でスーパーに張り込み、小学生の妹をダシに怪しい家の家探しまでさせる母の描写がエグいです。子どもが行方不明になって半狂乱になる気持ちは理解できますが、妹があまりにもその犠牲になりすぎていて、なかなかに読むのが辛いものがありました。


姉が帰ってきてからの、妹だけが偽物だと疑い続けるところもスリリングでうまいです。ただ、ラストの「真相」は、私にはあまりピンときませんでした。いや、仕掛けとしてはわかるのですが、あまりにも「頭で考えられた」組み立てになりすぎているような気がします(個人的には、この「理屈っぽさ」が湊かなえの美点でもあり、欠点でもあると思っています)。


小説としてのバランスも、「帰ってきた姉が本物か疑う」くだりに比べて、失踪期間中の母の執念とそれに振り回される妹のくだりが長すぎて、少々バランスが悪いように思えます。それなら、無理に「驚きのラスト」を仕掛けるよりも「姉探しに熱中しすぎる母と犠牲になる妹」のドラマにフォーカスして、そちらをメインにしたほうが良かったのではないでしょうか。


余談ですが、この手の「さらわれて帰ってきた家族が偽物ではないかと疑う」パターンの作品では、Netflixの映画『記憶の夜』が秀逸です。本作と比べていただければ、その構成からトリックまで歴然と違いますので、ご覧になってみてはいかがでしょうか。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!