hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2760冊目】谷崎潤一郎『春琴抄』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン82冊目。


再読ですが、何度読んでもヤバい小説です。


「愛している」と、言葉で言うのは簡単です。それなりの行動で示すことも、あるでしょう。でも、ここに出てくる佐助のような行動を「愛のために」取れる人はいるでしょうか。


盲目の春琴は、佐助にとって三味線の師匠であって、圧倒的な崇拝の対象でした。ところが、あるトラブルが原因で、春琴は顔面に熱湯をかけられ、その美貌が損なわれてしまいます。醜くなった自分の顔を見ないでくれ、と願う春琴。そこで佐助は、春琴の願いを叶えつつその傍らにいるために、自らの眼を針で突いて潰すのです。


読み直してびっくりしたのは、眼を潰す瞬間の、異様にリアルな描写です。『オイディプス』も『リア王』も(近松門左衛門の「景清」はどうだったか忘れましたが)、こんなに細かく描き込むことはしなかった。本書独特の、句点がなく文が続いていく文章の「拍子」とともにお読みください。


「成るべく苦痛の少い手軽な方法で盲目になろうと思い試みに針を以て左の黒眼を突いてみた黒眼を狙って突き入れるのはむずかしいようだけれども白眼の所は堅くて針が這入らないが黒眼は柔かい二三度突くと巧い具合いにずぶと二分程這入ったと思ったら忽ち眼球が一面に白濁し視力が失せて行くのが分った」


ちなみにこの後、右眼を潰す描写がさらに続くのですが、もういいでしょう。さらにこの後、自ら眼を潰したことを春琴に告白する佐助のシーンは、おそらくこれまで書かれた日本の小説すべての中でも有数の、愛と官能の極致であろうと思います。


いやはや、大谷崎、おそるべし。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!