自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2769冊目】伊予原新『月まで三キロ』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン91冊目。


珠玉の短篇集です。どれくらい素晴らしいかというと、図書館で借りて読み始めたにもかかわらず、最初の作品を読んですぐ本屋に走ったくらい。こういう出会いがあるから、読書はやめられません。


どの作品にも、さまざまな過去や鬱屈を抱えている人が登場します。ある人と出会うことで凝り固まった感情がほぐれたり、人生が大きく変わるのですが、ユニークなのはそこに、月科学、化石、火山といった「科学」が介在していること。それも、単に知識上の小道具として出てくるのではなく、科学自体のありようが、人に大きく影響を与えていくのです。


このあたりの科学の扱い方はどこか寺田寅彦中谷宇吉郎を思わせますが、エッセイならともかく、小説にこれほど自然なかたちで科学が織り込まれている作品を、私はこれまで読んだことがありません。岡潔ではありませんが、ここにはまさしく「科学の情緒」があるのです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!