hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2759冊目】ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン81冊目。


当初はフィクションと思われて忘れられていたが、実話とわかるや否やベストセラーになったといういわくつきの一冊です。確かにノンフィクションとしての迫力やリアリティはものすごいですが、小説だからといって忘れられるというのは、いささか腑に落ちません。小説だとしても、本書のもたらす感動は十分なものだと思うからです。


むしろこれは、刊行された1861年という時代が影響しているのではないかと思います。なにしろこれは、南北戦争が始まった年なのです。奴隷制がいかに悲惨で残酷なものか、北部の人々はそれほどよく知らなかったのかもしれません。ただ、著者の思いは奴隷制の真実をこそ知ってもらうことにあったわけですから、これが「作り話」と思われ、忘れられてしまったのは痛恨の思いだったことでしょう。


そういうわけで、今読めば、「奴隷制の真実」自体はそれほど目新しいものではありません。むしろ心を打たれるのは、そんな中で昂然として胸を張り、誇り高く生きた著者の生き様です。好色な主人から逃れるために他の白人の子どもを産んだり、光もほとんど差さない屋根裏部屋で7年間も耐え忍んだりと、想像を絶する過酷な環境の中で自らの意志を貫き通した魂の気高さです。そして、そんな彼女を支えた多くの人々の善意の尊さです。世の中は悪に満ちているが、それでも間違いなく、善なる者も存在することを、この本は教えてくれるのです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!