自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2756冊目】宮沢賢治『銀河鉄道の夜』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン78冊目。


よだかの星」「オツベルと象」「猫の事務所」「セロ弾きのゴーシュ」など定番の名作揃いですが、やはり表題作「銀河鉄道の夜」が一頭抜けています。圧倒的にせつなく美しい物語世界は、日本のすべての小説の中でも最高峰でしょう。たとえば次のような描写は、ほかのどんな作家にも書けないものだと思います。


「するとどこかでふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊ほたるいか)の火をいっぺんに化石させて、そら中に沈めたという工合、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと穫れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって・・・」


物語もすばらしいのですが、忘れがたいのが、作中で女の子が語る蠍(サソリ)の話。小さな虫をたくさん殺して食べてきた蠍が、いたちに見つかって逃げたあげく井戸に落ち、溺れそうになる。そこで蠍は思うのです。


「ああ、わたしはいままでいくつもの命をとったかわからない。そしてそのわたしが、こんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかいください」


どこか「よだかの星」を思わせる話ですが、一方では自らのからだを飢えた虎に食べさせるという仏教説話も連想させます。もちろんこのくだりは、ザネリを助けて溺れたカムパネルラにも重なってくるわけです。賢治の作品のいちばんの高みは、こうしたくだりにあるように思われるのですが、みなさんはどんな賢治作品がお好きでしょうか。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!