hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2757冊目】佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン79冊目。


大学を休学し、コンビニの夜勤バイトで生活する富山は、実はひそかに深夜ラジオにネタを投稿しています。実は、以前は別の名前で頻繁に投稿していた有名な「ハガキ職人」だったのですが、とある出来事がきっかけでバッシングされ、心が折れてしまったのです。本書は、そんな富山がバイト先の先輩でネットの「歌い手」である鹿沢、深夜のコンビニに登場するエキセントリックな女子高生の佐古田、性格にかなりクセがあり、富山の過去を知っている友人の永川と関わるなかで、少しずつ精神を回復していく物語です。


本書は全編、富山の一人称で、一人語りのように進んでいきます。たとえばこんな感じ。


「平日昼の横須賀は、そんなに人いない。たまにいるカップルうざっ。大学生っぽいカップルを見るのって、マジきつい。顔とか、ぱっと出てきちゃったりするから、あのコ、元カノの」


「バイトで外の掃除をする時、16号線の明るさが目にしみることがある。通りのこのあたりは、夜でも明るい。二十四時間営業はコンビニしかないけれど、スポーツクラブやファミレスはけっこう遅くまでやってて、開店後も真っ暗にはならない」


気取ることなく、話すように書かれた地の文は、読むうちに富山の心情と読み手がシンクロするような効果があります。富山のつらさや生きづらさ、深夜ラジオに求める救いのような気持ちに、すんなり共感できるのです。


そして、やはり本書が面白いのは、実在の深夜ラジオがばんばん登場し、富山たちに大きな影響を与えていることでしょう。リアルとフィクションの交錯、といえばそれまでですが、深夜ラジオの味わいや、そこに居場所を求める人たちの気持ちが、少しは理解できたような気がします。私自身はあまり深夜ラジオを聴いたことがないので(車に乗っている時くらいでしょうか)、少しうらやましくさえ感じました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!