hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2746冊目】フランツ・カフカ『変身』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン70冊目。


朝起きると虫になっていたグレーゴル・ザムザの物語、という知識は多くの人が持っているでしょうが、それだけではもったいない。私は何回読んだかわかりませんが、そのたびに印象が変わります。おそらく読む人、読む時期ごとに、まったく違った見え方となる小説ではないでしょうか。


今回印象的だったのは、本書のほとんどが虫になったザムザの独白であるということでした。なので、いきなり自分が巨大な虫になっている異様なシチュエーションなのに、なんだかそのことにはあまり触れず、自分の仕事のこととか、家族への思いとか、そういった日常的なことばかりが書かれているのです。あまりにも異様で極端な出来事に遭遇すると、人は案外、そのことばかりを直視してはいられないのかもしれません。


一家の稼ぎ手であるザムザが虫になったことによる一家の困窮に、たっぷり紙幅が割かれていることにも、以前読んだ時はあまり意識が及びませんでした。人が虫になるという出来事は寓話めいているのに、カフカはそこから生まれる世俗的でリアルな状況を淡々と書いているのです。本当の意味での不条理とは、あるいはそういうことなのかもしれません。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!