自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2514冊目】吉村昭『透明標本 吉村昭自選初期短篇集2』

 

透明標本-吉村昭自選初期短篇集II (中公文庫)

透明標本-吉村昭自選初期短篇集II (中公文庫)

  • 作者:吉村 昭
  • 発売日: 2018/10/23
  • メディア: 文庫
 

 


自選初期短篇集として編まれた2冊のうちの1冊。もう一方の『少女架刑』のレビューはコチラ

吉村昭といえば歴史モノや、実際の事件をもとにした作品が多い印象があるが、それと比べると、この初期短篇集2冊はなんとも異色だ。なにしろ、そこに常に横たわっているのは「死」なのである。いや、むしろ「死」を描くことによって、「生」そのものを逆照射しているというべきか。

冒頭の「墓地の賑わい」が印象深い。自分の夫と不倫して心中を試みて失敗し、両脚を失った妹を家の2階に閉じ込めている姉、という設定がまず怖い。姉の商売が、スプレーで色付けしたヒヨコを売るというもので、弱ったり死んだヒヨコを隣の墓地に捨てに行くのが語り手の幹夫の役目である。妹に頼まれてこっそりヒヨコを渡す幹夫。だが妹は、2階の窓から見える墓地の清掃夫に心奪われ、ヒヨコは無惨にも死んで虫がたかっている。

透明な骨格標本を作ることに囚われ、思いもかけないやり方で入手を果たす「透明標本」の倹四郎。「背中の鉄道」に登場する骨だけで泳ぐ鯛と、手術で抜き取られた自分の背中の骨の不気味な対照。「煉瓦塀」で血清を取るために殺される馬を助けようとする兄と妹。「キトク」で、父が死にかかっているとことあるごとに息子に電報を打つ母。どの作品でも、「死」が独特の手触りで迫り、あるいは横にいる。

ラストの「星への旅」も忘れがたい。自殺を試みるためトラックで移動する若者たちと、貧しい漁村の人々、そして空いっぱいに広がる星のコントラスト。そして容赦なく迫る死の瞬間。まさにこの異様な「初期短篇集」のカーテンコールにふさわしい逸品だ。