【2726冊目】小野不由美『魔性の子』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン48冊目。
幼い頃に神隠しに遭った高里。彼が戻ってきてから、その周りでは奇妙な出来事が続いていた。高里をいじめたり、危害を加えようとする者は、なぜかケガをしたり、命を落としたりするのだ。そんな高里のいるクラスに教育実習生としてやってきた広瀬は、高里に共感し、彼を守ろうとするのだが・・・・・・
ホラーであって、学園ドラマであって、ファンタジーでもあるという、独特の味わいのある一冊でした。意図せず周囲に危害を加えてしまう高里の心情が切なく、そんな高里を守ろうとする広瀬の情熱に胸打たれます。
だんだん「祟り」がエスカレートする、その持って行き方が上手いですね。特に学校の屋上からの集団飛び降りのシーンは背筋が寒くなりました。「十二国記」は未読ですが、それでも十分に楽しめ、そして「十二国記」が読みたくなる一冊です。
「実はこの世の者ではない」「自分の居場所は別の世界にある」という高里の状況は、そのまま著者の想いではないかと感じました。少なくともかつての著者は、そんなことを切実に思い、願っていたのではないでしょうか。しかし、広瀬も直面したように、残念ながら私たちは現実の世界から逃れることはできません。すべての物語は、そんな切望と断念の末に生まれてくるのではないでしょうか。勝手な思い込みかもしれませんが、著者が物語作家となったルーツを、本書の広瀬と高里には感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!