hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2747冊目】山本周五郎『さぶ』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン69冊目。


最初に読んだのは大学生の頃だっただろうか。そのときは通り過ぎるように読んだのだと思うが、それなりに年を重ねてから読むと、印象が全然違う。


たとえば初読のときは、主人公がどう見ても栄二なのにタイトルが「さぶ」なのが不思議だった。特に本書のメインとも言える寄場での日々はほとんど栄二のみで、さぶはときどき面会に来るに過ぎない。しかもさぶときたら鈍くてどんくさく、とても主人公という感じではない。


でも、これはやはり栄二が主人公で、なおかつタイトルが「さぶ」であることが大事なのだ。なぜなら、私も含め、市井に生きる人々のほとんどは「さぶ」なのだ。才覚のある人を支え、自身は名を残さず消える存在。「さぶ」とは、そういう人々のいわばシンボルなのである。


本書は栄二の成長譚である。才気があり、意欲があり、しかし恨みを抱えて意地になっている栄二が、恨みを呑み込み、自分を支えてくれる人々の存在に気づく過程なのだ。それがさぶであり、おすえであり、おのぶであり、与平や松田のような寄場の連中なのである。彼らがあって、はじめて栄二がいる。繰り返すが、だから本書のタイトルは「さぶ」なのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!