自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2744冊目】『江戸川乱歩傑作選』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン66冊目。


二銭銅貨」「二癈人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」を収録した一冊です。


初期作品が中心のセレクションですが、探偵モノであらためて読んで上手いな、と思ったのは「心理試験」。倒叙モノですが、心理テストをごまかそうとしてかえって墓穴を掘るという展開が鮮やかです。


「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」の後半4編はいずれもオールタイムベスト級の傑作。特に、唯一中期の作品から選ばれた「芋虫」は、何度読んでもとんでもない作品ですね。かいがいしく面倒を見ているようで実はサディスティックな感情を「芋虫」となった夫にぶつける妻の描写がリアルすぎてすごく怖い。見てはならない世界を覗いてしまった気になる小説です。


久しぶりに乱歩作品を読み直して思ったのですが、この人、心理描写が異常に上手いですね。日本版ラスコーリニコフともいえる「心理試験」の蕗屋にせよ、退屈から殺人を思いつく「屋根裏」の郷田三郎にせよ、先ほども書いた「芋虫」の時子の「介護者のサディズム」とでも呼ぶべき感情にせよ、人間にとって禁断の感情、闇の心理とでもいうべき心の動きを、よくここまでリアルに描けるものだと思います。現代のイヤミス作家と言われるような方々は、乱歩の爪の垢を煎じて飲むべきですね。


これに「パノラマ島奇談」と「押絵と旅する男」が加われば最強ラインナップと言いたいところですが、それでもなお、乱歩の醍醐味を味わうには十分な一冊でした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!