【2741冊目】山崎豊子『約束の海』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン63冊目。
海上自衛隊の潜水艦と釣り船の衝突事故に翻弄される二等海尉、花巻朔太郎を主人公とした長編小説です。歴史をまたいだ大長編として構想されつつ、著者の死で中断された作品ですが、本書だけでもそのスケールの大きさは一級品です。
慣れない専門用語や潜水艦乗りの独特の雰囲気に戸惑う部分もありましたが、途中からはそんなことは気にならなくなります。なにしろ小説としての厚みが凄い。だいたい、事故が起きるまでに本書の三分の一、130ページを費やして、潜水艦乗りの日々をたっぷり描写しているのです。後半では、裁判とは違う独特のルールをもつ海難審判の描写がリアルで、法廷小説としても大変にスリリングなものとなっています。
そして、この小説の一番底に横たわっているのは、自衛隊とは、国防とは何なのか、という問いなのです。本当は本書の後、花巻の父を中心とした太平洋戦争の話が続くはずであり、人間の誇りと生き様をめぐる話がさらに深掘りされるはずだったことを考えると、著者の逝去は残念でなりません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!