hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2740冊目】宮部みゆき『魔術はささやく』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン64冊目。


およそ20年ぶりの再読。平成元年に刊行された、宮部みゆきの長編第一作ですが、そうは思えないクオリティの高さには、あらためて驚かされます。次々に起きる事件、予想のつかない展開、驚くべき犯罪方法、いずれも見事ですが、一見バラバラに見える要素が、ラスト近くになって一挙に結びつくくだりには、背筋が震えるほどの快感を覚えます。


そしてなんといっても、主人公である高校生の守が魅力的です。父が横領事件を起こして失踪した守は、周囲からさげすまれ、排除されてきました。でもそんな中で、大事なものをきちんと見極め、しっかりと前を向き、それでいてしたたかに生きてきた守。「まっとうに生きる」ことを何より大事にしているその姿は、宮部みゆきの他の作品の主人公にも通じるものがあります。


そしてそんな守が、本書の最後の最後、すべての事件が解決したと思えた後に、とんでもない試練に直面するのです。いや、むしろこの試練をクライマックスとして、著者はそれまでのすべてのシナリオを一挙に収斂させていきます。それは「人は人を裁くことができるのか」という、重い重い問いです。父の犯した罪ゆえに社会に「裁かれ」続けてきた守は、自らが裁く立場になった時どうするのか。それはすべての読者が、同時に突きつけられた問いでもあるのです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!