【2739冊目】中村文則『土の中の子供』
「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン61冊目。
短いけれど、重く暗い、ねっとりと絡みつくような小説です。いわく言い難い異様な迫力があって、読み始めたら本を置けなくなりました。
親に捨てられ、引き取られた親戚の家で壮絶な虐待を受けた「私」は、山の中で生き埋めにされそうになり、逃げ出します(だから「土の中の子供」なのです)。同じような傷を負った女と住み、タクシードライバーをやっているのですが、心の中にはぽっかりとした虚無が広がっています。その虚無は、気がつくと心の中にじわじわと入り込み、悪意と妄想を撒き散らすのです。
中村文則の小説はこれまで2〜3冊しか読んでいないので、あまりえらそうなことは言えませんが、この本はとてもしっくりきました。確かに陰鬱な小説ではあるのですが、なんというか、作者のピントが今まで読んだ小説の中では一番合っている気がします。作者がもっとも「書かずにはいられない」ことを書いている、というか。おそらく、これまで著者の描いてきた人物の多くもまた「土の中の子供」なのだと思います。そして、これからもまた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!