hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2738冊目】二宮敦人『最後の秘境 東京藝大』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン62冊目。


いや〜、これは面白い本でした。マンガ『のだめカンタービレ』や『ブルーピリオド』でなんとなく知っていたつもりにはなっていましたが、甘かった。現実はその斜め上を行っています。


なんといっても、通っている人がみんな超個性的で、美術や音楽に一途に邁進しているのがカッコいいですね。口笛の世界チャンピオンや、田中久重の再来といわれる天才からくり人形造りもいれば、三味線と「カワイイ」の融合を目指すキラキラシャミセニストも、ブラジャーを顔につけた仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」もいるのです。


こんなに選りすぐりの連中の多くが、卒業後は行方不明になるというのも面白い。芸術一本で食べていけるのは本当に一部の天才だけで、それ以外の人たちはそうした天才を世に送り出すための、いわばこやしのような存在なのです。残酷なようですが、それもまた世の現実でしょう。


巻末の対談で学長さんが語っているように、功名心や名誉心のようなものがあまり感じられないのも興味深いですね。では、やりたいことをみんなやっているのか、というと、そうとも限らないようなのです。ある人は美術とのつながりを「腐れ縁」と表現し、それを受けて著者はこう書いています。「つまり美術が面白いからではなく・・・・・・美術から逃れられない人が常に存在したから、あそこまでの作品が生まれたのではないか」(p.180)


う〜ん、これはまさにモームの『月と六ペンス』の世界ではないでしょうか。あの小説に出てくるストリックランドも、絵を描きたいのではなく、描かずにはいられない人間でした。藝大とは、そんな人々のエネルギーが渦巻く、究極のカオスなのかもしれません。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!