hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2713冊目】村上春樹『螢・納屋を焼く・その他の短編』



新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン35冊目。


村上春樹の初期短篇集です。それぞれの作品の印象を一言でいうと、「螢」はリリカル、「納屋を焼く」は不気味、「踊る小人」はホラー、「めくらやなぎと眠る女」はミステリアス、「三つのドイツ幻想」は寓話的、といったところでしょうか。


どの作品も、いや、それをいうなら村上春樹の作品の多くが、日常を丁寧に描きつつ、その裏側にある非日常の気配を濃密に漂わせています。描いているものは部屋の掃除とか食べた料理とかなのですが、その描写が具体的であればあるほど、その隙間にわずかに顔を出すものの異様さが際立つのです。特に本書では、「死」というテーマが常に通奏低音のように鳴っています。


「死は生の対極としてではなく、その一部といて存在している。

 言葉にしてしまうと嫌になってしまうくらい平凡だ。まったくの一般論だ。しかし僕はその時それをことばとしてではなくひとつの空気として身のうちに感じたのだ。文鎮の中にもビリヤード台に並んだ四個のボールの中にも死は存在していた。そして我々はそれをまるで細かいちりみたいに肺の中に吸い込みながら生きてきたのだ」(p.30-31)


もっとも、ここに描かれた「死」は切実なものでありながら、どこか非現実的な、地に足のついていないものであるようにも感じました。そのあたりの描き方が変容したのは『アンダーグラウンド』で地下鉄サリン事件の取材をしてからではないかと勝手に思っているのですが、実際のところはどうなんでしょう。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!