自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2635冊目】長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった』


「長谷川和夫」という名前に聞き覚えがある方なら、本書のタイトルは衝撃的だろう。なにしろ長谷川和夫といえば福祉業界では知らない人はいないであろう「長谷川式スケール」の、あの長谷川先生である。本書にもあるように、まさに「認知症界の長嶋茂雄」みたいな人なのだ。


日本の認知症研究を長年最前線で引っ張ってきたその人が、なんと自ら認知症になった、というのである。そして、自分が認知症になったことで、はじめていろんなことが見えてきた、という。本書はそんな「認知症研究の第一人者であり、自らも認知症となった人」からの、貴重な内部報告なのだ。


どんなことを書いているかというと、たとえば、著者は「認知症になる前と後で、その人は連続している」という。当たり前のことに思えるが、実際には多くの人が、ある人が認知症の診断を受けたとたんに「あの人はニンチだから」などと言って、今までと別の人間であるかのように(あるいは、半ば人間ではないものを見るかのように)扱い始めるのだ。著者はこう書いている。


「最も重要なのは、周囲が、認知症の人をそのままの状態で受け入れてくれることです。『認知症です』といわれたら、『そうですか。でも、大丈夫ですよ。こちらでもちゃんと考えますから、心配ありませんよ』といって、いろいろな工夫をしてあげることです。

 どういう工夫をするか。その人との接し方を、それまでと同じようにすることです。それまでと同じというのは、自分と同じ「人」であるということを、第一に考えるということです」(p.44)


本書にはほかにも、認知症の基礎知識にはじまり、長谷川式スケールの開発秘話、日本の認知症の歴史(これがそのまま著者の半生に重なるところがスゴイのだけど)など、福祉や介護に関わる人、認知症のある身内や知人がいる人には必読の内容になっている。


認知症のある人の人数は、2015年時点で世界で5000万人。これが2050年には1億5200万人に増えると見込まれているという。おそらく、本書の重要性は、今後ますます高まっていくのではないかと思う。認知症は、誰にとってもけっして他人事ではないのだから


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!