自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2509冊目】樋口直美『誤作動する脳』

 

誤作動する脳 (シリーズ ケアをひらく)

誤作動する脳 (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者:樋口 直美
  • 発売日: 2020/03/02
  • メディア: 単行本
 

 


最近こういった本が増えてきた。こういった本、というのは、病気や障害の当事者みずからが、その体験や思いを語る本、ということだ。高機能自閉症統合失調症高次脳機能障害アルツハイマー認知症などの当事者が、すでに見事な「現場報告」をしてくださっているが、本書はそれに続く一冊。「レビー小体型認知症」の当事者による、本人にしか知り得ない貴重な証言となっている。

 

そもそも「アルツハイマー」は知っていても「レビー」なんて聞いたことがない、という方が大多数だろう。福祉や介護に携わっている方であれば「幻視などを伴う認知症」であるということくらいは知っているかもしれない。だが、その症状がどのようなものか、具体的に知っている人は少ないのではないか。少なくとも私は、本書を読んで初めて、この病気について今まで何もわかっていなかったことに気付かされた。

 

例えば、発達障害の方に見られるような感覚過敏があること。匂いがわからなくなる一方、幻臭があること。冷蔵庫の扉を閉めたとたんに中にあるもののことをすっかり忘れてしまうほどの記憶障害。時間の感覚もなくなり、「来週」「来月」と言われてもどれくらい先のことかがイメージできないこと・・・

 

著者はただひたすら「困っている」だけではない。いろいろ工夫する。とはいえ、できないことが「できる」ようになるわけではないのだから、「できない」ことを別の「できる」に置き換えていくしかない。家族の予定を忘れてしまうのなら、全部カレンダーに書いてもらう。遠出する時は「持ち物チェックリスト」を作っておく。コンロの火を消すタイミングも洗濯する時もタイマーをかけておく。忘れてはいけないことは、最初から思い出せないものとしてメモを残す・・・

 

もちろん、これらは多かれ少なかれ、誰もがやっていることである。つまりは「誰だって、できないこと、失敗することがある」ということでもある。すべて完璧な人もいなければ、まったく何もできない人もいない。ただ、何ができるか、何ができないかは人によって違う、というだけの話なのだ。だから著者の工夫や行動は、私たちすべてにとって他人事ではない。

 

もうひとつ。著者はレビー小体型認知症の診断を受ける前、6年にわたりうつ病と「誤診され、抗うつ薬抗不安薬の副作用に苦しみ続けてきたという。本書の第6章は、薬を飲めば飲むほど状態が悪化する、地獄のような日々の記録となっていて、読んでいて胸が痛くなる。誤診の恐ろしさが身に沁みてわかる、医療関係者必読の章である。