自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2592冊目】 アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』


この本には驚いた。まるでアガサ・クリスティかエラリイ・クイーンの新刊を読んでいるみたい。しかも舞台はきっちり現代になっている。


著者自身がワトソン役で、元刑事のホーソーンが探偵役。手がかりはすべて描写され、何ひとつ隠されない。なのに、読み手は(少なくとも私は)みごとに騙される。


う〜ん。このフェアプレイ精神、この推理ゲーム感覚が「ツボ」のど真ん中を刺激する。これほどハイレベルの「騙される快感」が、リアルタイムの新刊で読めるなんて、こんな幸福があるだろうか。クリスティやドイルの同時代人は、いつもこういう幸福を味わっていたのだろうなあ。


とはいえ、内容は決して古臭くない。むしろ、自分の葬儀の手配をした老婦人が、その日のうちに殺されるという導入など、前代未聞といっていい。トリックも周到で、ひとつひとつはシンプルだが、それが複雑に絡み合っているので、ひとつが解けただけではかえってワケが分からなくなるようになっている。


人物造形も丁寧で奥行きがあり、しかも個性的(このあたりもクリスティっぽい。「ありがちな」人物を巧みに描くことに関しては、クリスティのうまさは飛び抜けている)。まあ、本格推理好き、ミステリ好きなら、読まない理由はない。かくいう私自身、今日まで「積読」していたことを後悔している。すぐに次の作品を読まなくっちゃ。