【2608冊目】アンソニー・ホロヴィッツ『シャーロック・ホームズ 絹の家』
まさか21世紀になって、ホームズの「新作長編」が読めるとは。
むろん、著者はコナン・ドイルではなくアンソニー・ホロヴィッツだが、著作権管理団体コナン・ドイル財団から「80年ぶりの新作」として認定されただけあって、その「再現度」は圧倒的だ。翻訳もすばらしい。
レストレイド、ハドスン夫人、マイクロフトにモリアーティまでが勢揃いするのも楽しい。なかでも浮浪児たちによる「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」は、かなり大事な役割を与えられている。なんといってもこの本は、「なぜホームズがある時期以降『イレギュラーズ』を使わなくなったのか」という(シャーロッキアンにはおなじみの)問いに答える一冊でもあるのだから。
あと、ドイル作品と大きく異なるのは、その「後味の悪さ」だろう。しかしそのことさえも、「なぜワトソンが本作だけは生前に公開しなかったか」という理由づけとしてしっかり組み込まれているのだから、やはりホロヴィッツはしたたかだ。
あとはホームズ物におなじみの冒険活劇と、得意の超高速推理が展開されるので、安心して霧深き19世紀のロンドンに没入すればよい。最後にややネタバレを含むツッコミを入れておくので、未読の方はご注意を。あ、言っておくが、こういう「ツッコミ」は粗探しではなく、ホームズ・ファンの「礼儀」みたいなものなので、念のため。
(以下ネタバレあり)
●邦訳だと「ハウス・オブ・シルク」がどこのことなのか、かなり早い段階で検討がついてしまう。不自然な「アルファベットの振り仮名」が突然出てくることに注意。
●モリアーティは結局何の役にも立っていない。ホームズを動かすのにも失敗している。あの手がかりだけじゃ、いくらなんでもわかりにくすぎる。
●ホームズはあっさり罠にはまりすぎ。監獄の中であっさり殺される可能性もあったのに。
●以前の依頼主が偶然、自分が収容された監獄の医者になっていたというのは、さすがに偶然すぎないか。いちおうフォローはあったけど。
●マイクロフトも失敗している。シャーロックを諦めさせたければ、むしろハウス・オブ・シルクから興味をなくさせるように振る舞うべきだった。
●ハウス・オブ・シルクの門番はガードが甘すぎる。シルクを見せるだけであっさり中に入れるとは。