【2582冊目】ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』
小学校高学年あたりで一度読んだきりだった。たぶんポプラ社あたりの児童向け翻案モノだと思う。
とにかく怖かった記憶しかない。「黄色い部屋」というシチュエーション。羊の骨という不気味な凶器。どこに潜んでいるかわからない犯人・・・。イラストもずいぶんおどろおどろしいものだったような記憶が。
その割に中身はすっかり忘れていた。本当に「すっかり」だ。探偵役が18歳の新聞記者ルルタビーユだということも忘れていたし、そもそもこの事件が「殺人未遂」事件であったことも忘れていた(途中で犠牲者は出るが、そっちはどちらかというと偶発的なもの)。そうなのだ。これは「犠牲者が生きている」密室事件なのである。
だったらトリックなんて簡単じゃないか、と言うなかれ。本書で仕掛けられているトリックには、今読んでも驚かされる。それに加えて、個性的な登場人物、スリリングな展開、意外な犯人と、まさに密室ミステリの王道を行く作品なのだ。
さらにこの創元推理文庫バージョンには、ジャン・コクトーの序文がついていて、文学好きには嬉しいオマケとなっている。特に次のフレーズには、痺れた。すばらしい。
「大事なのは、怪物が生まれること自体である。わたしにはそれだけで充分だ」