自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2593冊目】篠田節子『夏の災厄』



20年ほど前に読んだ本。なんとも懐かしいが、この本をこんなかたちで思い出すことになろうとは。


看護婦、保健婦という呼び方、厚生省という官庁名、今は新法に生まれ変わった伝染病予防法、MMRやインフルエンザと、ワクチンの副反応が問題視されていた世相など、20年もたつといろんなことが変わっている。


ところが、今起きている新型コロナをめぐる動向と、本書で描かれている新型日本脳炎をめぐるパニックは、気味が悪いほどよく似ているのである。


不確かな情報に振り回される現場、圧迫される医療現場、他人事のような国の対応、疲弊する地域経済、感染症をめぐる差別や排除。特に本書の終わり近くに書かれた次の文章は、まるで今の状況を見て書かれているかのようだ。


現代日本の防疫体制は、そんなに遅れたものではない。厚生省を頂点とした完璧なシステムも、大学病院や企業の研究所の研究者の能力も、薬剤や医療技術の質も、世界のトップレベルにあるはずだ。しかしなぜか、今、このとき機能しない。なぜなのか、だれにもわからない」(p.562)


今を予言する、パンデミック・サスペンスの傑作。自治体職員出身の著者ならではの現場感覚も見どころだ。今の状況を客観視するためにも、保健所や医療現場の感覚をリアルに知るためにも、今こそ一読を勧めたい。