【2480冊目】今西錦司『生物の世界』
1941年に「遺書のつもりで」書いたという、今西錦司最初の生物学系の本。本当に大事なこと、本当に必要なことだけを絞り込み、急き立てるように論を展開しているのは、戦争で命を落とすかもしれないという差し迫った危機感と、それゆえ自分が生き、思索した証を残したいという切実な思いからなのだろう。
今西錦司といえば、の「棲み分け理論」や、「同位社会」「同位複合社会」の考え方も登場するが、なんといっても、その基盤となっている今西ならではの世界観が素晴らしい。それを拙いながら要約してみると、われわれの世界とは空間的であり、同時に時間的なものである。それはすなわち、その世界を構成するいろいろなものの存在様式が、構造的であって機能的である、ということだ。そして、生物が身体的であって生命的であるということも、この流れの中に位置付けられる。
空間的ー構造的ー身体的
時間的ー機能的ー生命的
唐突かもしれないが、本書を読んでいて感じたのは、著者の感覚がきわめて仏教的な、言い換えれば相互即融的で曼荼羅的なものであるということだった。そこが今西独自の生命観につながり、「棲み分け理論」や、本書の後半で展開されるようにダーウィン進化論における自然淘汰論への強い反発に至っているのだろう。のちの生態学、自然学へと展開していく、今西理論の出発点がここにある。