【1539冊目】大栗博司『重力とは何か』
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)
- 作者: 大栗博司
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/05/29
- メディア: 新書
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「わかる」とは、どういうことか。
本書を読んでも、たぶん特殊相対性理論や一般相対性理論を完全に「わかる」ことはできない。量子力学も超弦理論もブラックホールもホログラフィーも同様だ。巧みなメタファーを駆使し、数式を一切使わない説明手法なのだから、伝えられることは限られている。
でも、そもそも厳密な理解というレベルで「わからせる」のは、新書一冊には無理な仕事だ。私がこういう新書に期待しているのは、その世界がどんなことになっているのかを俯瞰し、さらなる専門書に進むための扉を開ける鍵(もしくは新たな世界の地図)を提供してくれること。もっと言えば、読み手のセンス・オブ・ワンダーを刺激してくれることだ。
本書は、そうした期待に最高レベルで答えてくれる一冊だ。重力という「日常生活レベルで感覚的に理解しているが、実はよくわかっていない」力について問いなおすことからはじまり、特殊相対論、一般相対論、ブラックホール論、量子力学、超弦理論、ホログラフィー原理と、まさに第8章のタイトルどおり「この世界の最も奥深い真実」にまで気がつくと導かれている。本のテーマであったはずの重力が、最後になるとどこかに吹っ飛んでしまっているのがおもしろい。
説明は過不足なく、絶妙にわかりやすい。細かい原理的な説明と、ざっくりした俯瞰的なメタファーによる説明が縦横に織り込まれている。もちろん全部が理解できたかと言われると非常に心もとない(特にブラックホール論の後半がキツかった)のだが、それでもそれなりに「分かった気」にさせてくれるところがうまいと思う。
印象に残ったのは、GPSで使われている人工衛星での時間の進み方が地上の時間と誤差があり、その補正に相対性理論が使われていること(特殊相対論では人工衛星の方が7マイクロ秒/日、進みが遅い。一方、一般相対論ではなんと人工衛星のほうが46マイクロ秒/日、進みが早い)。
また、ビッグバン以前のわずかな量子的「ゆらぎ」が星を生み、ひいては生命を生みだしたこと、水と油の関係だと思っていた相対論と量子力学が、超弦理論によって融合されそうであることも、本書で(たぶん)初めて知った。どうやら、宇宙論や物理学の最前線は、SFも真っ青なとんでもない展開になっているらしい。
ちなみに、読みながら「ヒッグス粒子が出てこないな〜」と思っていたら、続刊の『強い力と弱い力」にたっぷり登場する模様。なんだかまだまだ、このセンス・オブ・ワンダーの旅には続きがあるらしい。