【726冊目】スチュアート・カウフマン『カウフマン、生命と宇宙を語る』
- 作者: スチュアートカウフマン,Stuart A. Kauffman,河野至恩
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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著者はサンタフェ研究所に籍を置く理論生物学の第一人者。複雑系科学から生物学へのアプローチを行っている。
タイトルがややリーダー・フレンドリーな感じだったので手に取ってみたが、内容はかなりハイレベル。生物学はおろか複雑系、進化論、量子力学、宇宙論までを視野におさめた最新理論の連発であり、正直理解できたかと問われると自信がない。本書でカウフマンは相当チャレンジングな発言もしているらしいが、どこがそうなのかすらわからない体たらくであった。これからお読みになる方は、最新の理論生物学と複雑系科学の入門書に目を通してからのほうがよいかもしれない。
ただ、わからないなりに目を見開かされる(というのも妙だが)ところも多かった。特に、生物を含む自律体を「仕事サイクルを実行する自己触媒システム」と定義することで物理学と生物学を架橋している点、複数の種による「共進化」現象、わずかな差異が極大化する複雑系科学からみた変異と進化のメカニズム、生物圏の配位空間をあらかじめ記述することはできないため、物理学的(あるいはニュートン・アインシュタイン・ボーア的)演繹は不可能であるという指摘などである。そして、カウフマンの議論がこれまでのタコツボ的な生物学とは一線を画したきわめて分野横断的な視点に貫かれたものであり、その論旨が果敢であることは認めざるを得ないにしても、今後の生物学研究―はたして生物とは何か、生命とは何か、進化とは何か……―の可能性は、こういうところからしか開かれてこないのだろうな、と思わせられた。類書を渉猟した上で、またいつかリベンジしたい一冊である。