自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2435冊目】加須屋誠『地獄めぐり』

 

地獄めぐり (講談社現代新書)

地獄めぐり (講談社現代新書)

 

 

ひところ「地獄」がテーマの絵本がはやったが、古くから「地獄絵」は多くの人に影響を与えてきたと著者は言う。清少納言西行後白河法皇、近代では斎藤茂吉太宰治寺山修司などが挙げられるというが、そもそも、なぜ地獄絵がそんなに「気になる」のか。

「地獄」を一言で表現するなら、それは「死」のイメージの具現化だ。ひどく残酷かつこれ以上ないくらい明瞭に、現世の行いと死後の報いが結びつく。ちなみに、地獄は地下8階建ての巨大なビルのようになっていて、それぞれの高さは5000由旬(1由旬は約7キロメートル)。最下層の無間地獄は高さ2万由旬だそうである。途方もないスケールだ。

1層目は等活地獄で、殺生の罪を犯した者が行く。ここは亡者同士が敵対し、殺し合うという。有名な「釜茹で」が行われるのもこの等活地獄である。2層目の黒縄地獄は盗みを働いた者に対し、文字通り黒い縄を使った刑罰が科される。煮えたぎった大釜の上にサーカスのロープのように張られた縄の上を、鉄の塊を背負って歩かされたり、縄で体中に印をつけ、それに沿って切り刻まれたりするらしい。3層目の衆合地獄は邪淫の罪を犯した者が行く場所で、ここには刃葉樹という、葉が刃物でできたぶっそうな樹木が生えている。樹のてっぺんでは美しい女(や男)が手招きしており、慾に目がくらんで傷だらけになって樹を登ると、相手はいつの間にか地面にいる、といった具合である。さらに悪見処という場所では、自分の子どもが自分の代わりに拷問にかけられたり、自身の肛門から煮えたぎった銅を流し込まれたりしている。ここはなんと「他人の子どもを誘拐して、性暴力を加えた者」が行かされる場所なのだ。

4層目は叫喚地獄。飲酒の罪を犯した者の行き場所だ。ここでは恐ろしい獄卒が鉄棒で叩く、焼けた鉄の上を走らせる、溶けた銅を口から流し込むなどのありとあらゆる苦痛を与える。5層目の大叫喚地獄は虚言の罪を犯した者。ここでは獄卒が亡者の舌を引っこ抜いたり目をくりぬいたりする。よく言われる「嘘をつくとエンマさまに舌を抜かれる」という言いきかせはここから来ているらしい。第6層は不正な心の持ち主が行くという焦熱地獄で、生前に心の中で抱いた悪しき欲動がその身を焼き尽くす。第7層の大焦熱地獄は、純潔の尼僧を犯した者が行くということでずいぶんニッチな地獄であるが、ここでは猛火に加えて暴風が吹き荒れ、亡者たちは吹き飛ばされ、焼き尽くされる。ラストの阿鼻地獄は父母殺しなど5つの大罪を犯した者が行くが、これは2千年にわたってひたすら頭を下にして落下し続けるというユニークなもの。

まあ、こうしてみていくと、人間の想像力の豊かさというものを思い知らされるが、なぜわれわれがこうした地獄というものを発想し、興味を抱くかというと、これがよくわからない。著者は、多くの人が抑圧している「暴力とエロス」を投影しているとみているようだ。確かにそれもあるだろうが、それだけではあまりにもフロイト的というか、少々一面的なように思う。

その点、本書を読んていて気になったのは、地獄ばかりを取り上げて対置されるはずの「極楽」をほとんど取り上げず、さらに日本や東洋の地獄のみを取り上げ、例えばギリシャ神話やローマ神話における地獄、ダンテが『神曲』で描いた地獄や煉獄を扱っていない点だ。ないものねだりなのかもしれないが、人間にとって地獄とは何なのかという点を、もう少し比較対照的に掘り下げてほしかった。

 

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵

 

 

 

神曲 地獄篇 (角川ソフィア文庫)

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神曲 地獄篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

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