自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2434冊目】大野晋『日本語の年輪』

 

日本語の年輪 (新潮文庫)

日本語の年輪 (新潮文庫)

 

 

普段当たり前に使っている言葉がもつ、意外きわまるルーツを紹介する。読めば読むほど、言葉とは生き物であることを実感する。

たとえば「かわいい」という言葉は、かつては「見るに耐えない」という意味だった。それが「見るに耐えないほどいたいたしい」といったあわれみの表現になり、これが恋慕の情につながり、現代の「カワイイ」に至ったという。ちなみに「いとおしい」もよく似ており、これは「いとう」(厭う)がルーツ。やはり「見ていられない」「目をそむけたい」というところから始まり、「いたいたしい」「かわいそうだ」という気持ちを経て恋慕の情につながっていく。

これだけでもびっくりだが、問題はこうした言葉が男女の仲において、しかも通常は男性から女性に向けて使われること。「見ていられない、かわいそうなという表現が、思いあう男女の仲で使われるようになるのは、男の心の底に、女を、劣った、一段あわれな、憐憫すべきものと思う見方が根強くあるからではあるまいか」と著者は指摘する。
わずかに「かわいい」「いとしい」の2項目だけでもこの調子である。このレベルの議論が、「うつくしい」「おいしい」「こわい」「あたらし」「ななめ」「おとうと・いもうと」など、58もの言葉で展開されるのだから、読めば普段使っている日本語の見え方が一変すること請け合いだ。さらに「日本語の歴史」では、上代から戦後までの日本語の歴史を一挙総覧する。文章は明晰で読みやすく、内容は深くて広い。大野晋にしか書けない、日本語の奥深さと面白さを伝える良書である。