【2601冊目】高橋ユキ『つけびの村』
2013年、山口県の山間の集落で起きた5人の殺害、そして放火を追ったノンフィクションです。
被疑者の保見光成(ワタル)は、村人に嫌がらせをされている、悪口を言われているという「妄想」に基づき事件を起こしたとされています。しかし、実際に「うわさ」「悪口」はあったのだ、というのが、簡単に言えば本書の骨子になります。
陰口やいじめ、村八分といった行為がこの郷集落にあったのか、というところに、本書の力点はおかれています。
それはいいのですが、事件ルポルタージュとして見た時に、私はどうしても中途半端さというか、踏み込みの浅さを感じてしまいました。
それは、犯人の保見に向き合い、理解することから、著者が「逃げている」という印象が拭えなかったためです。あくまで個人的な印象ですが、書きやすいところだけを書き、理解が難しそうな、コミュニケーションが取れなさそうな犯人のことは最低限にとどめたように思えました。
限られた面会時間だったことを差し引いても、ありていにいって、保見に対しては腰が引けていた。保見からせっかく手紙が送られてきたのに、自分には理解できないと決めつけて、目をそらしてしまっていた。村のうわさ話があったこと、悪口があったことだけを見て、そのことを保見がどう受け止めたのかは、想像しているだけ。正面切ってそのことを保見にぶつけることさえしていない。そして、村の事情に「逃避」した。
それでいて、保見に対しては「犯した罪を真正面から受け止め、死刑執行のその日まで、煩悶し続けてほしい」(p.288)などと書いている。「真正面から」保見に向き合えなかった人が、こういう形だけのことを書いてはいけないと思います。
みなさんは、どのようにこの本を読まれましたでしょうか。