【2639冊目】トニー・パーカー『殺人者たちの午後』
これはすごい本だ。滅多にない一冊だ。
収められているのは、10のインタビュー。その相手は、男性もいれば女性も、若者もいれば老人もいる。共通点はただひとつ。殺人を犯し、終身刑となったこと。ちなみに、著者のいるイギリスでは死刑制度がないため、終身刑はもっとも重い刑である。
人を殺すとはどういうことか、人を殺した人が生きる人生とはどのようなものか。本書で語られるのは、そうしたことだ。その内容は10人10通りだが、人を殺したことのない私には、いずれも想像を絶するものばかり。だが、こうした光景を見ている人は、間違いなく実際に存在するのだ。イギリスでも、この日本でも。
少しだけ、紹介しよう。
第1章で、声をかけてきた通りがかりの見知らぬ人を刺し殺した男は言う。「俺の過去にあるのは穴だけだ。真っ暗な穴だよ」
第3章で、自分になつかない1歳半の子どもを殺害した男は言う。「刑務所に入れられた俺は、そこで自分自身をもうひとつの刑務所に入れてしまったんだ」「俺が一番会いたくなかった人間、いちばん近づきたくなかった相手、それは間違いなく俺自身だったんだ」
第4章では、酔っ払って自分をレイプしようとした男を「冷静に」刺殺した女性には、ステラという子どもがいる。その子は、自分の母親が殺人罪で終身刑になっていることを知らない。そのことをどう伝えるかが最大の悩みなのだ。
本書でもっとも陰惨な犯罪は、第5章の「マラソン・マン」。酒に酔って記憶を失くし、行きずりに、8歳と3歳の子どもに性的暴行を加え、惨殺した。「思い出せないんだ。心が思い出させようとしないんだ。そんなこと、絶対に」
もう十分だろう。こんな胸の引き裂かれるような告白が、第10章まで続くのだ。最後に、本書に登場する殺人者でもっとも「怖い」と思った人物を。第2章に登場する若者だ。14歳の時、小遣いをくれなかったと言う理由で、自分の祖父の首にハサミを突き立てて殺害した男は、あっけらかんとこう語る。
「多くの人が、殺人のような重大な罪を犯す人間はすごく残忍か頭がいかれているかのどっちかだ、と思っているでしょ? でも、ぼくはみんなに違うってことを見せてやれるし、本当はぼくが正直で、信用できるし、信頼するに足る人間だってことも示せるはずです。だから、若くて、きちんとした人生の目標を持っていれば、将来に問題はないんだって証明できるはずです。ノー・プロブレム、問題なし、です」(p.78)
反省ゼロ、罪悪感ゼロ、罪の意識ゼロのポジティブさが、不気味でしょうがない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!