【2376冊目】NHKスペシャル取材班『老後破産』
サブタイトル「長寿という悪夢」が、本書の内容を一言で言い表している。まっとうに人生を送り、仕事をしてきた多くの高齢者が、乏しい年金だけでかつかつの暮らしを送っている。食費は1日100円、夜は電気代節約のため真っ暗な部屋でラジオを聴き、自己負担分が払えないため病院にも行けない。そんな高齢者が急増している。
葬式代のためと取ってあるお金や、長く暮らした家があるために、生活保護も受けられない。いや、正確には受けられる可能性はあるのだが、持ち家があれば受けられないと思い込んだり、預金が減ってから申請に行って受けられなかったら、という不安で、申請に踏み切れない。
社会の構造的な問題に加え、すでにあるセーフティネットを知らず、あるいはそこに頼りたがらないがために、貧困に陥っている高齢者も多い。それを無知、自業自得と嗤うことはたやすい。だが、高齢者が複雑な制度を理解して使いこなすのは簡単なことではない。
支援が必要な高齢者を家族が囲い込んでいるケースも多い。無職や低収入の子が年金目当てに親と同居し、自己負担をケチって必要なサービスや医療を受けさせない。その背景には、非正規雇用の増大という、今の日本が抱えるもうひとつの病理がある。事情はどうあれこの国は、高齢者に「早く死んでしまいたい」と言わせてしまう国なのだ。