【2375冊目】陳浩基『ディオゲネス変奏曲』
ものすごい短篇集だった。本格推理、クライムノベル、ホラー、SF、ショートショートと多彩な作品が収められているのだが、どれもたいへんな傑作揃い。少し古い例えになるが、最盛期の小松左京や星新一、筒井康隆のクオリティに近いのではないか。
いくつかピックアップする。冒頭の「藍を見つめる藍」はラストのひっくり返し方が鮮やかなクライムノベルで、パトリシア・ハイスミスあたりを思わせる。思わず最初から読み返してしまった。「頭頂」は高度なアイロニーを含んだホラーで、現代の日本でこそ書かれるべき作品であろう。「時は金なり」は、時間とお金を文字通り交換できるようになった未来社会におけるSF寓話。時間をめぐる寓話としてはエンデの『モモ』に近いが、込められたアイロニーは星新一のショートショート、あるいはいっそ『ドラえもん』あたりに出てきそう。いろいろと考えさせられる一篇で、個人的には本書の中のベストかもしれない。
「珈琲と煙草」は、コーヒーがドラッグのように禁じられた社会を描くという着想が傑作だ。筒井康隆に似たようなのがあったような。「悪魔団殺(怪)人事件」は、なんとヒーローと戦う悪の組織が舞台の傑作バカミス。でもきっちりミステリー仕立てになっているのが素晴らしい。「見えないX」は、大雨で閉ざされた教室で展開される「犯人捜し」というきわめて図式的な本格推理モノで、綾辻行人から『名探偵コナン』まで日本の推理モノへのオマージュがちりばめられているが、個人的には岡嶋二人の某密室推理モノを思い出した。
著者の陳浩基は1975年生まれだが、その才気煥発ぶりは見事としかいいようがない。追いかけたい作家がまた一人増えてしまった。