【2825冊目】吉村萬壱『ボラード病』
村田沙耶香『地球星人』を紹介した際、ある人からオススメいただいた一冊。やっと読めました。
『地球星人』を受けてのリコメンドという時点で、相当ヤバいことが想像されるわけですが、
読んでみたら予想以上のヤバさ。
『地球星人』ほどの破壊力はありませんが、じわじわとこちらの精神を蝕んでいくような小説です。
海塚市という架空の町が舞台。一人の少女の視点で綴られています。
この少女自体もいろんな意味で生きにくさを抱えていて、妄想癖があったり、母との関係もだいぶ病んでいたりするのですが、
読んでいくとそれよりも、舞台の海塚市自体の気持ち悪さが際立ってきます。
とにかく住民の、市への愛着の度合いが並外れているんです。
みんなで市の歌を歌い、
市の海産物を絶賛し、
住民総出で海辺でゴミ拾いをしたり、
なんて書いても、別に異様だとは思わないでしょう。
私も、最初はそうでした。
でも、読むうちにじわじわと「来る」んです。内臓に手を伸ばされ、触られるように、この町の気持ち悪さが迫ってくるんです。
さらに、ここでは同級生が次々に死に、
市を批判した人は行方不明となり、
反抗的な若者を警官がいきなり袋叩きにします。
少女の異常さ、少女と母の関係の異常さ、少女が通う学校の異常さ、そして町全体の異常さ。
何重もの異常さが、ここでは入れ子のように描かれています。
むしろ町の異様さに抗うことが母の異様さを生み、母の異様さに抗うことが少女の異様さを生み出している、とも言えるでしょう。
この点については、文庫版の解説で、いとうせいこうがきわめて的確に表現していますので、最後にそこを引用します。
「私たち人間は、小説という悪夢によって社会が強要する悪夢から醒め、読後に新しい個人的な悪夢を獲得するべきなのだ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!