自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2826冊目】ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』

 

世界中で1000万部以上売れたという本書は、なんと70歳の動物学者が書いた初めての小説だそうです。

 

でも、それも読んで納得。

 

確かにこれは、動物学者でなければ書けない小説です。

 

★★★

 

本書はディテールが際立っています。

 

沼地の自然の描写の美しさに、カイアの研究する沼地の生物のありよう。

 

随所に、動物学者としての目が活きています。

 

そんな「沼地」の包み込むような存在感があってこそ、この物語は光り輝いているのでしょう。

 

★★★

 

物語はなんとも切なく、痛ましく、それでいて、とても美しいものでした。

 

一方でチェイスという青年の死をめぐる謎に、スリリングな裁判シーン。

 

青春小説、恋愛小説、成長小説、ミステリと、さまざまな要素が盛り込まれているのですが、

 

沼地というトポスにすべてが包み込まれ、見事にバランスが取れているのがすばらしいですね。

 

その中心になっているのは、カイアという人間の魅力でしょう。

 

読む前は、単なる沼地の野生児、せいぜい『もののけ姫』のサンみたいな存在かと思っていましたが、

 

このカイア、独学で沼地の生物を研究して本を出すほどの知性もあり、

 

幼なじみの恋人テイトに教わった詩を楽しむ感性もある。

 

その人物像の厚みが、この物語をとても豊かなものにしています。

 

ハックルベリー・フィンとレイチェル・カーソンを足して二で割ったような、といったら良いでしょうか。

 

まあ、とにかく素晴らしい小説であることには変わりないので、未読の方は、ぜひ手にとってほしいと思います。

 

最後までお読みいただき,ありがとうございました!