【2302冊目】フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』
古き良きSF小説の中でも、フレドリック・ブラウンは最高峰。シンプルで、ユーモラスで、適度にツイストが効いている。星新一や筒井康隆、あるいは手塚治虫や藤子不二雄のSFのルーツはここにあったとよくわかる。ちなみに本書の翻訳者は、その星新一。なんてゼータクな。「みどりの星へ」「ぶっそうなやつら」「おそるべき坊や」「電獣ヴァヴェリ」「ノック」「ユーディの原理」「シリウス・ゼロ」「町を求む」「帽子の手品」「不死鳥への手紙」「沈黙と叫び」「さあ、気ちがいになりなさい」の12篇が収められている。
「おそるべき坊や」は小品ながらウィットが効いていて面白い。子どもって、大人の知らないところで、実は世界を救っているものなのだ。でも大人はそれがわからないから、子どもを叱ってばかり。
「ノック」もちょっとした小話みたいなものだが、星新一の名作ショートショート集『ノックの音が』を思わせる。びっくりしたのは「ユーディの原理」で、これは無限ループ構造のようなものが埋め込まれた異様な作品。「さあ、気ちがいになりなさい」はSFというより一種のブラック・ユーモアで、何が妄想で何が現実なのか、読むうちにどんどんわからなくなっていく。
他の作品も粒ぞろいの秀作ばかり。現代のハードSFに比べれば古臭く感じる部分もあるが、私はこれくらいの方が安心して楽しめる。