自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2817冊目】小川三夫『棟梁』


本当に大事なことだけが詰まった、ホンモノの仕事論。


本当に大事なことは、言葉で伝えるのは不可能だ。だから、本書は「伝え方」自体を教える本になっている。聞き書きの名手、塩野米松さんによって引き出された「ホンモノの棟梁」の言葉は、声色や息遣いまで聞こえてきそう。


著者が設立した「鵤(いかるが)工舎」は、全員が一緒に住み込み、仕事も生活も共にするところからはじまる。人を知るには、仕事だけ見ていてもダメだからだ。特に「掃除」と「料理」をやらせると、そいつの本質がわかるという。


集団生活は、仕事に「浸りきる」ためにも必要だ。著者自身、西岡常一に弟子入りするときに言われたという。「一年間はラジオも聞かなくていい、テレビはいらん、新聞も読まなくてもいい。大工の本も何も読む必要はない。ただひたすら刃物を研げ」


どんな仕事でも、本当に「身につける」には、これが本当に大事なのだ。ワーク・ライフ・バランスなんて言ったら、著者に鼻で笑われるだろう。日曜日だからといって仕事のことを忘れているようではダメなのだ。「一つのことに打ち込んでおれば、人間は磨かれる」からだ。そのための環境を用意しなければならないのだ。


日々の現場が修行だから、当然しょっちゅう叱られる。特に「失敗したとき」「決断できないとき」「遅いとき」だ。叱る時は、その場ですぐ叱ることが大事である。一方、助言するのは難しい。何を言うか、ではなく、大事なのはいつ言うか。「決まり時に、決まりどころを教えたら、一を聞いて十を知る」と著者は言う。その「決まり時」「決まりどころ」を見抜くのが指導者というものなのだ。


他にも「未熟なうちに任せる」といったやり方も大事だ。早くから責任を負わせることで、見えてくるものは多い。一方、鵤工舎ではベテランはどんどん独立していなくなる。だから組織が腐らないのだ、と著者は語る。上の者が居座ると、組織は腐るのである。会社組織や役所など、まさにその典型だ。


本当に大事な「仕事論」とは、こういう言葉の中にあるものなのだと思う。中途半端なビジネス書を100冊読むくらいなら、この本を100回読むべきだ。仕事の覚え方、人への伝え方、リーダー論に組織論、すべてここに入っている。


こんな考え方は古い、と思う人もいるだろう。だが、これは「普遍」というものなのだ。彼らは千年後に残る寺社を建てるからこそ、千年前にも千年後にも通用する仕事をしなければならないのである。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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