自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2796冊目】砥上裕將『線は、僕を描く』


ひょんなことから水墨画の世界に飛び込んだ大学生、青山霜介の成長を描いた一冊です。


水墨画の奥深さをめぐる絶妙のアート小説で、両親を事故で亡くした主人公の精神の回復の物語で、水墨画の賞にまつわるバトル小説で、主人公と友人たちの交流を描く友情小説でもあります(友人の古前君のキャラがけっこう好きです。森見登美彦さんの小説に出てきそう)。いろんな魅力がありながら、全部がバランスよくまとまっているのも素晴らしいと思います。


そして、これらすべてを支えているのが、水墨画に関する圧倒的なリアリティ。その技法から精神面に至るまでの説得力はハンパじゃありません。こんなことが書ける著者は何者?と思って奥付を見たら、なんとプロの水墨画家であるとのこと。というか、小説は本書がデビュー作らしく二度びっくり。並々ならぬ才能と、著者にしか書けないテーマが融合して、この稀有の小説は生まれたのですね。


こうなると次回作が気になるところですが、すでに『7.5グラムの奇跡』が出ていますね。なんと水墨画から離れて「視能訓練士」を主役にしているとのことですが、評判は上々の様子。本書の登場人物による続編とスピンオフも、そのうち読んでみたいと思いました。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!